ふたばりんくふりー

狐照

ふたばりんくふりー

頼むからいっぺん死んでくれ。

そう誰かに言われたいのか。

そう誰かに言いたいのか。

俺の頭の中にはいつもその言葉が濁流し続ける。


「関係ねぇ話までするつもり、俺ねぇっつたじゃんか」


軽口を叩いて笑ってみせる。

止めに顔面を踏みつけて、お気に入りの靴にどす黒い染みを作った。

辺りは元から薄暗く、誰が何人倒れてるのかなんて分からない。

明日にならなきゃ誰がどんくらい重傷かなんて、把握もできない。

それくらい、俺は今日暴れまくった。

ってもいつものことか。

ふいに拳やら体やらが痛みだし、背中に広がる熱い汗と血の巡りの良さに気付いた。

最後に叩いた言葉の意味を、俺はもう思い出せない。

なんでこいつらとこんな血まみれなことになったのかも、実は覚えてない。

厄介なことに、ここがどこなのかさえ、知らない。

記憶喪失ってやつじゃない。

適当に誰かと遊んでノリで遠出するとかってんでバイクの後ろ乗ってて、そんでどこっか連れてかれて、今に至ってる。

そう、そんだけ。

誰かが苦しげに唸った。

俺をここまで連れてきた奴かもしれない。

確認する気はないけど。

笑ってみせると悪役っぽいから、痛んだ拳で殴られた腹を撫でてみた。

恨まれるとか、報復とか、俺の周りには黒々しい感情だらけだった。

俺の行動と言動が大半悪い方向に向けてんのは知っていた。

ただ、あまりにも俺の周囲は悪意に満ちすぎている。


「死んで、くれ、か」


思わせぶりに、呟いてみせる。誰にも聞こえてはないだろうけど。

思わず嬉しげな歪みを口元に作りかける。

悪役っぽいからしたくねぇけど。

ケツに挿してたケータイが鳴ったのはその直後だった。


「俺」


『うん、俺ー』


暢気な声が耳に触れる。


「んだよ、こんな時分に」


『や、なんか心配で…』


「はぁ?気味わりぃ」


『や、実は今遠いとこいたりするだろ?』


「…」


思わぬ図星に、言葉が詰まる。


『で、いつもみたく、血まみれな喧嘩なんかしちゃって、ひとり元気なんだろ?』


「てめ、どっかいやがんのか!?」


あまりの的確さに俺は辺りを見回す。

当然闇しか広がっていない。

それでも疑わずにはいられなかった。


『いないいない。なんとなく。で、いつもみたく死にたいとか死ねとか考えちゃってんだろ?』


俺よりも軽い口調に返すことすらできなくなった。

その通りだと言ってしまえばいいのか。

ざけんなチンカスとでも言えばいいのか。

てめぇが死ねと言い返せばいいのか。

言葉が紡ぎ出せない。


『俺、お前が死んじゃうのやだし、誰かに死ねっていって実行されんのもやだ。だから、今、向かえに行くからさ、住所探してよ』


数時間後、俺は迎えに来た奴のバイクの後ろに跨ってた。

可愛いエンジン音と共に現れたこいつは人が良さそうな面下げて、スクーターのライトで辺りを照らし出し、わぁ惨殺死体みたいだね、とほざき。

かえろとぬけぬけ呟き、俺を勝手に家に連れ込んで。

俺はいつの間にか濁流する言葉すら忘れていた。

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