9.月隠る大晦日**
末棄によく似た男は狂気と狂喜のあいのこのような笑みをつねに浮かべ、己で造ったかつての恋人数体を侍らせながら、アムリタの製造にとりかかっていた。
夫婦も時々映るそれ。
意味不明な映画を混ぜ、時に美しい自然を、ものの壊しかたを教える映像。
その映像を見ながら、外からの会話を聞きながら酷は思った。
おそらく、この男、変若水末期の為に自分を造っているのだと。
けれど末期は自分を製造している現在、病死し数年が経っている。
精神に異常をきたし、心の袋小路に追い込まれ夫婦はもういない末期のために、自分を製造している。
それに何の意味があるのか。
いやきっと、自我を支える唯一なのだのだろう。
夫婦には意味のある製造だったのだ。
夫婦は製造と梱包を終えてまもなく心中した。
酷は末棄を想う。
末期宛の荷物を、末棄が嫌々受け取ったのを聞いていた。
文句を言いながら、恐る恐る梱包を開けていた。
培養液に浸ったままの自分を見た時の、顔。
驚きと、何か別の。
見た目は好みだったのだろうか。
起動され契約する時の、震えた手。
あれは恐怖だったのだろうか。
それでも、末期と同じ顔で、末期と同じ声で、よろしくな酷、そう笑った顔は。
生まれたのには意味があると、教えてくれた。
末期だっらそうは思わなかった。
末棄だったから、そう思った。
他でもない。
末棄だったから、そう、思えた。
末棄は、末期とは違う。
違うんだ。
足音を消すことも息を殺すこともせず、酷はおちみず公園建設予定地を走り続けた。
時刻はもうすぐ年も明けるほど。
無事なのか怪我はないか血の臭いはしないか。
休息を求める体を叱咤しながら、酷は末棄を探す。
匂いが、ああ、あそこだ。
ちかちかと弱く灯る外灯の下、末棄が、地面に雪に埋もれ倒れていた。
酷は限界の足をとにかく前へ出し続け、末棄に駆け寄った。
そんな人の気配に末棄が気がつき、ゆっくり上体を起こす。
顔面は蒼白、眼は虚ろ、肩を落とし、駆け寄る人物が酷だと分かった途端。
頭を抱え叫ぶ。
まるで異常者そのもの全開の末棄に、酷は近寄ることを止める。
本当は体をまさぐり外傷はないか確認したかった。
けれど近寄ったら末棄が裂けてしまう、そんな幻覚を見た。
末棄は怯えるように、違う違うと連呼する。
何に、怯えているのだろうか。
末棄は嫌悪感露わに、俺は違う俺は違う。
何が、違うのだろうか。
酷は震え悶え苦しむ末棄を、ただ黙って見つめる。
それは心ない強化人間のようでいて、眼差しには明確な感情が宿っていた。
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