9.月隠る大晦日*

夜も明け朝焼け日が昇る。

酷は末棄を探し奔走。

人の話を、特に末棄の話を良く聞き覚える酷は、今日の末棄の予定を知っていた。

鷹宗が確認した通り行けば、まず正午からおちみずグループ地方支社で会議のはずだ。


人気のない大通りを駆け抜け、到着したのは昼が少し過ぎた頃。

けれどそこに末棄の姿はなかった。

会議がつい先ほど終わったようで、歯を見せる役員たちが見えた。

ならば次と、酷は都内へとんぼ返り。


けれど何処へ行っても末棄が去った後だった。

鷹宗が管理していたスケジュールが変更されたのか。

分からない、分からないが酷はその身ひとつでもって、末棄を追い求め続ける。


辺りはあっという間に暗くなり、酷は星々の大海から比べればなんともまぁみすぼらしい明かり共々の中、風を切り裂き駆け抜けた。

おちみずグループ本社に辿り着くがそこに末棄の姿はまたもなかった。

逃げられている、そんな訳はないのにと、闇夜の中必死で足掻くようにして酷は探し回る。

酷はその息を整えることなく、高速道路に躍り出て猛スピードで走るトラックの荷台へ飛び乗り、次の場所へ向かう。


首藤と行動を共にしない時、末棄は主におちみずタクシーを利用する。

特有の燃料を燃やすエンジンの音と匂いはあるけれど、その中に末棄の香りが混ざらない。


先へ、もっと先へ。


末棄だけを想い末棄だけを探し続けた。

ほうぼう駆け回り、本日最後の仕事先まで辿り着いた酷は、そこにもう末棄が居ないことに愕然とした。

忙しく飛び回る末棄を、なんの手がかりなく追いかけるのは難しい。

分かっていたことだったが、想像の遙か上を行く移動力に、今更ながら疲れを知った。


変若水家本邸や会社で待ち伏せすれば?否、待ってなんていられない。

じっとなんてしていられない。

いますぐ会いたい。

どうしようもなく傍に居たい。


酷は肩で息をしながら、水分の多い空気の中からなんとか匂いで辿れないものかと、鼻をひくつかせた。

吐瀉物、血の臭い、コロン、様々な人の様々な理由の様々な匂いの中に、金木犀。

酷はそれを必死に掴み、駆け出した。

体が千切れそうなほど疲労で悲鳴を上げていた。

こんなに自分を使ったことは今まで一度もない。

けれど酷の心が休むことを許さない。


粉雪はいつの間にか本降りの雪に変わり、辺りはすっかり雪化粧。

真っ白な世界に真っ黒な闇。

深い霧のような光景に。

酷は何故か、自分を造った夫婦の事を思い出していた。

夫婦は長らく変若水末期の悪行に手を貸した科学者で、頭も心も壊れていた。

末期が亡くなって以降、市外の小さな工場で二人は必死になって酷を製造した。

初期教育時にみせられた映像には末棄に見た目も声色も似た、妙齢の男が映っていた。

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