7.乃東生ず日***

その、言葉を。

酷は、何故か。

何故か脅威に感じ、後ろ髪がちりちり。

核武装した戦車であろうとも斃す戦闘力があるはずの酷が、はっきり一歩後ずさる。

はっきりと恐ろしく。

鎧を壊されていくこの感覚。


「酷様?」


微笑む度無害と警告。

見透かしている、すべてを。

感情が心が魂がある、同類だからこそ。

酷は唇を震わせ、


「何もっ…俺は…何もっ」


生まれて始めて、嘘をついた。

壊れていく、酷の中で。


「酷様、どうか、自分に正直になさってくださいませ。そうすれば、もっと生は良いものに」


「やめろっ」


自分が出したとは思えない感情剥き出しの叫び。


「…酷様…わたくしはもう、分かっておりまする。どうか、素直に…」


「やめろっ」


強くなる拒絶。


「酷様、何故でするか?」


「やめろっ」


何も考えたくない拒絶。


酷様、次にそう呼ばれ瞬間黒い弾丸。

酷は撫子の元へ飛びかかり、手出しをしてきた寒椿のテンプルを撃ち昏倒させる。

脳裏に末棄が浮かび、寸前のところで、撫子の眼を狙った手が止まる。

撫子は怯えることもなく、屈んだ酷の背中を撫でた。

子供をあやすそれに吐きそうな、これは泣きそうな。


やめてくれ。


喜びも悲しみも。


心ない生き物でなければ、意味がないのだ。


抹殺し続けていた、酷の心が今までの反動で収まることなく彼の体を苛んだ。


「…何、してんだ、酷…」


名を呼ばれ、酷は我に返る。

末棄だ。

呼ばれればすぐ、酷は末棄の元へ戻ろうと振り返る。

末棄は青い顔色をして、汚らわしいモノを見る眼。

酷の良く知る、一番して欲しくない顔を浮かべていた。

自分に対して。


「あ、撫子様、首藤様捕まったんでここで待機して居て下さい。迎えが来ますので。首藤様と合流した後記者会見、パーティーと組まれていますのであしからず。後は鷹宗が引き継ぎますのでご安心を」


まるで何も起きていない知らない関係ない、勝手にやってろと言わんばかりの他人行儀。

末棄が、本当にどうでも良い人にすることを知っている酷は、明らかに動揺して動けなかった。


「じゃ、俺はこの後別件がありますんで失礼します。…そうそう、酷、お前もう付いてこなくていいぜ」


手荷物を鞄に詰めながら末棄はそんなことを言った。

けれどそれはただの待機命令ではなかった。


もう、と言っている。


「…それは、どういう」


意味を問う前に、末棄はお前うぜぇと、首藤を見るような目。


「そんなに兄嫁様が好きなら、兄嫁様の護衛しろって意味」


「なぜ…」


かろうじて縋ろうと、末棄は嫌そうな皺を顔に作る。


「今後一切俺の傍に寄るなそれ以外は勝手にしろお前の自由だ、以上」


罵声を浴びせるかの如く、顔を怒りで歪ませ颯爽とドアを開閉。


去ってしまった。


離れてしまった。


追わなければ守らなければ。

 

けれど、動けなかった。


捨てられた。


末棄に。


そう、棄てられてしまった乃東生ず日。

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