5.閉塞冬と成る日***
似ているそっくりだ、あの冷徹非道な犯罪者末期叔父さんに。
やっぱり血が繋がっているからかなぁ。
あのひと何人殺したんだっけ?天文学的な数字だったっけ?
首藤くんはちょっとあれだし、素甘ちゃんなんて半分強化人間でしょ?
本家も大変だぁ。
末棄くんがちゃあんとしないとね。
ああでもホント、似ているなぁ。
なおも、繰り返す。
終わりを作らないよう、男は語り口調を換えて逃さない。
酷は、今はもう末棄の横顔を見つめ、点滴が落ちる音に集中。
小指が痙攣。
末棄は端末を眺め目を擦り一息。
時々髪を掻きむしり、考え込んでから鳴った電話に、はいもしもし。
すべての言葉が無意味と、末棄を通り過ぎていく透過していく。
男はいよいよ自分が言ってきたことが効いていないと分かり、やはり攻撃対象はこれだと、得意げに眉根をあげ酷を見直す。
どこまでも演技、どこまで大根役者。
「ところで君、名前は?」
酷の生まれを知っている為、それを用いて末棄をどうこうしようと画策。
「…お前の歯は、黄色い」
酷は屈んでまで自分の顔をのぞき込んできた男の第一印象を率直に述べた。
男はみるみる顔を赤くさせ、餌を求める鯉のように口を動かす。
「…お前の目は濁っている」
黄色い歯に、淀んだ瞳。
酷は男が何らかの病気を患ってると判断。
「…お前は、性病だ」
「なっ」
息の生臭さから結果それを選んで口にすると、心当たりがあるのか、男は手の甲まで赤くさせ、
「なんて強化人間だっ」
目の前が赤すぎて狙いそれ、酷を叩こうとした手は点滴にぶつかった。
避けるに値しない攻撃だったため、酷は微動だにせず、逆に手を痛めてしまった男は、憎悪を細目に乗せ酷を睨む。
酷は感情のない眼でそれにやり返し、結果眼をそらした男はわなわなと震え上がった。
「…あー…酷が、なんかしましたか?」
一方末棄は、派手な音で今更何かあったかを気付き気遣い。
それでも端末を叩く手は止まらず、男は僕はもう帰るっと、かろうじて聞き取れる可聴音域を発し荒々しく出ていった。
末棄は男を呆然と見送り、「男のヒステリーは、面白いほどみっともないな…」
小さな感想を零して、倒れた点滴を直し外れた針を刺し直す。
立ったついでと末棄はドリンクバーに向かい、コーヒーのボタンを押した。
黴の匂いだけを嗅いでしまった酷は、次に漂うココアの香りに助けられる。
「お前、あの人に何言ったんだよ」
ココアにシュガーステック三本目を入れ、しっかりかき混ぜてからそれを酷に渡す。
「…何も」
茶色い、甘い、熱い、それらを確認しながら酷は呟くように返答する。
さきほど男と会話した声色より幼い感じになる。
「お前、容赦ないからなあ」
一口カップを啜り何か思い出した様子で、末棄は僅かに笑った。
「最初、お前を起動した時も、契約した俺以外敵ってなって、部屋に入ってきた鷹宗の鼓膜破ってその他右左の眼、潰したもんな」
あれには驚いた、首藤を攻撃しなかったのは無武装だったからだっけか。
末棄は笑いながら席に戻り、欠伸をひとつ伸びをひとつ。
「点滴は…もうじき終わるか…そしたら首藤たちと合流するぞ…あーその前に素甘かー…」
末棄は駄目駄目首藤の前に、甘やかされ壊れた母専用永久幼児素甘の我が儘を思いだ出し溜息。
「はー……甘いか?酷」
小さく頷く酷に末棄は笑った。
それ以上何も言わない末棄に、酷は誇り高き鷹の羽ばたきを感じ、甘いココアを少しづつ口付けた閉塞冬と成る日。
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