5.閉塞冬と成る日**

アムリタの原液は永遠。

アムリタの高濃度は継続的な投与が必要。

市販のアムリタは飛躍的一時的。

強化剤に含まれるアムリタは人に劇薬、強化人間に必要不可欠。

これは変若水家の家訓のようなもの。

そして高濃度アムリタは、顧客との直接販売しか行っていない。

信用のおける富裕層にのみ、永遠の若さと永遠に近い命をもたらす美容液を売る。

それは危険な取引でもあった。

特に新規の顧客と、アムリタに心酔し破産寸前のお得意様が。

新規の客は、首藤が来る物拒ます主義と知ってか知らずか否知って、あらゆる業種のお金持ちが声を掛けてくる。

時に上客も居るが、大半が黒いことで金儲けをしている輩。

物だけ頂いて始末、もしくは誘拐なんてのを考えているのが後を絶たない。

何らかの形で脅して、おちみずグループに参入を画策とするものさえいる。

また、お得意様も同類で。

永遠に目が眩みアムリタを自社で製造しようとする、奪おうとする、上客だからと無理を言う。


壊れずにはいられない。

取り扱うには多くの危険が降りかかる。

そんな高濃度アムリタを売り歩くのが、本来ならば首藤の務め。

けれど彼は、面白いほど知恵がない人間。

そのため末棄が補佐をして、結果命の危険に晒されながら、巨額の富を変若水にもたらす。

また、美容液の販売企画戦略など、変若水一族が経営するおちみずグループの、全責任が末棄に任されている。

末棄が日々忙しいのは、首藤に似て愚かな親族達が、あれやこれやと仕事を振るからだ。

その上失敗すれば烈火の如く父と祖父から罵倒が飛び、お前は無能だと、普段首藤に言うような汚い言葉を頂戴する。

褒められることなく末棄はすり減るように、仕事を淡々とこなしていく。

そうして得た巨額の富や利益のほとんどが、この男のような変若水一族によって湯水のごとく使われている。


「ああでも、ほんと、そっくりだぁ」


この男の勤務時間は二時間。


「叔父さんに、末期さんにぃ」


この男の月給は億単位。


「でも思考まで似ちゃだめだよー?これ以上人殺し変若水から出したくないしねぇ」


その上日々たいした仕事もせず、本日夕刻、愛人と海外旅行予定の男。


「あ、でもできないか、教育っていうか、躾が、すごかったらしいね」


変若水の、変若水らしい、人を見下すことを許された者の笑いを浮かべる男。


「その反動で首藤くんと素甘ちゃん、あれだけど。末棄くん、お母さん壊しちゃってるからねぇええ」


学も品もない意欲もなにもない。

そのため末棄も参加した変若水本家会議でリストラが密かに決まっている男。


「ほんと、ああ、末期さんそっくりだねぇ。こわいこわい、こわいくらいだ。ほんとこわいねぇ。やあ、これはちゃんと仕事しないとねぇ。あんな綺麗なお母さん、壊しちゃって、そっくりだから」


本妻が自己破産し、その負債の為に資産すべて没収が決定しているのを知らない男。

そんな男の、意味のない末棄にとってはもう聞きたくもない言葉は、なおも続いた。

邪険に扱った報いはこうだと、報復だ。

それ以上に、おもしろがるように男は繰り返す。

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