無責任な綺麗事

明通 蛍雪

無責任な綺麗事

自殺はしないでください。という綺麗事。



 私は中学生の頃、酷いいじめに遭っていた。理由は単純。クラスの中心人物であるA子が想いを寄せていた男子が、私に告白をしてきたこと。

 私がA子の彼氏を寝取ったとかなら納得もいくのだが、生憎その男子生徒とは言葉も交わしたことがなかった。

 A子の恨みを買った私は、学校に行くたび体に傷ができていった。担任の先生は見て見ぬふり。先生からも一度言い寄られたが、それを断ったことが原因だろう。担任はそれ以降、冷たい態度を取るようになった。まぁ、A子のようにいじめを行うわけじゃないから、私にとってはどうでも良かった。

 それから、私の家には両親がいない。祖父が一人、私を育ててくれていた。唯一の心の拠り所である祖父も、先日病に伏して亡くなった。突然、私はこの世界にひとりぼっちになった。

 私は親戚の家に引き取られることになった。中学は転校することになり、いじめはなくなり私は一時の安全を手に入れた。でも、その時間は長く続かなかった。

 高校に進学すると、同じクラスにA子がいたのだ。A子は私を見つけるや、根も歯もない噂を流し、またいじめが始まった。それは、中学の頃よりも苛烈さを増し、待っていたのは地獄だった。

 私は中学生の頃,自殺を考えていたことがある。もう生きていたも楽しくない、辛いだけだと思って。

 そんな私を生かしていたのは、とある配信者の言葉だった。

「生きていればなんとかなる。何かある」

 もちろん、育ててくれたおじいちゃんへの申し訳なさもあった。

 その配信者の言葉が私に希望をくれた。生きていればなんとかなる。なんて素敵な言葉なんだ。と私は前向きになれた。

 だが、それはただの綺麗事だった。その配信者が私を助けてくれるわけでも、生きているから何かあるなんてことはなく、私の人生は地獄しかないのだと悟った。


 私は家を出て、一人で旅に出ることにした。もう学校に行かなくていい。いじめられることもない。私は自由になったんだ。これでようやく解放される。

 自殺しちゃいけない。生きていれば良いことがある。

 そんな綺麗事、自殺を考えている人に言ってはいけない。

 その人の未来がいいものであると責任が取れるのなら、約束できるなら話は別だが、外野の無責任な発言は、人を余計に傷つける。

 私は靴の下に遺書を挟み、学校の屋上から飛び降りた。

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無責任な綺麗事 明通 蛍雪 @azukimochi

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