第2話 オレの大切な友。

夏。暑くてキラキラしてる。

オレは夏が大好きだ。

夏休み、部活に専念できるし、

何より、アイツの誕生日がある。


「今年は駿とどこ出かけるかな〜。」


駿は幼い頃から塞ぎがちなひねくれ少年だった。

でもそれは亡き母と家に帰らない父に挟まれていた過去を駿の爺さんから聞いた。

だからか駿は決して俺の家に遊びに来ない。

だから、オレが駿の家に入り浸る様になった。

駿の爺さんからは駿が明るくなったと礼を言われた。

周りからは偽善者と言われてもいい。

それでもオレは駿が笑ってくれるのがいい。

今日も目の前には気だるそうに歩く駿の姿がある。

いつもと同じ。変わることのない日常。


「しゅーん。はよ!」

「野中、おはよう。今日も元気そうだね。」


嫌味ったらしく言う駿。

でもむしろそれが心地いい。


「野中くん、おはよー!」

「おーっす。」


何気ない女生徒と挨拶。

それを見てオレがモテると言う駿。

でもオレは知ってる。

オレと話しながらも見てるのは駿の方。

卑屈になりすぎて、駿は周りを見ない。

自分がモテるはずじゃないと確信してる。

駿は綺麗な母と長身イケメンな父から生まれたスラッとした長身のイケメンだ。

オレがスポーツ系な爽やか少年だとするならば、

駿は哀愁漂うインテリイケメンだと思う。

オレも顔は悪くない、けど駿に勝てるとは思わない。

女子が嫌いじゃないが、それよりも駿と一緒にいる方が楽しい。

それがオレの日常だ。

そんなオレの日常を壊す瞬間が訪れた


ーきゃぁあぁあぁあああー


女子の悲鳴が聞こえ、オレらは声の方向に振り返る。

そこにあったのは猛スピードで迫る車。

オレはそこで思ってしまった。

ーあ、死んだー

スポーツでレギュラーを取っても、足が早くなるよう走り込んでも、瞬発力を鍛えても、

今この現状で咄嗟に出てこなかった。

目の前に飛び込んできた死が体と脳を無能にした。


ーどんっー


そんな事を考えているオレの身体が宙に浮いた。

押したのは瞬だった…

俺の目の前で車に衝突される駿。


「しゅーーーん!」


必死で手を伸ばした。声を出した。

それでも駿には届かない。

オレの目の前で駿は宙を舞い、地面に叩きつけられた。

それでも顔はオレを見てる。

血だらけになった顔でオレを見て、駿は笑った。

まるでオレが死ななくて良かったと言うように…


「野中くん、ケガしてる!動かないで。」

「うっせ、離せ!駿!」


女子の静止を聞かず、オレは痛い身体を起こして駿の元に向かう。

抱き上げた駿の身体は力が抜け、重かった。

ー駿は即死だったー

泣き叫んでも、名前を呼んでも、駿が答えることは無かった。



治療を終えたオレが警察署へと向かった時、居たのは駿の爺さんと婆さんだけだった。

父親は息子が死んだと言うのに仕事を理由に来なかったらしい。

警察から詳しい話を聞いた。

相手は居眠り運転でハンドル操作を誤ったとの事だった。

そんな事で駿は死んだ。

オレは悔しくて泣いた。

なんで駿が死ななければならなかったのだろうか。

オレはいるか分からない神を恨んだ。

悲惨な運命を負わせた神が憎かった。

オレの大切な友を奪った、それが許せなかった。


その日、オレは帰り道で飲酒運転の車と事故に逢い、死んだ。

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