役立たずのレッテルを貼られましたが、本気は出してません

玲也

第1話 俺、死にました。

暑い夏。今日も俺は学校へと向かっていた。

俺は夏が嫌いだ。自分が生まれた夏が嫌いだ。

俺を産んで、母さんが死んだ。

元々身体が弱く、俺を身篭った時も危険だと父さんは反対してたらしい。

それでも、母さんは「産みたい」と譲らなかった。

真夏の暑さに耐えきらなかった母さんは俺を産むと命を落としたそうだ。

それを酷く悲しんだ父さんは母さんとの思い出が多く残った家を避け、俺と会わないようになった。

俺は父方の祖父母に引き取られ育てられた。

2人は俺に母さんと父さんの話をしてくれた。

当時の事も2人から聞いた。

それでも俺は

父さんに嫌われている、母さんを殺したのは俺だ

そう思うことしか出来なかった。

だから、俺は俺が産まれた夏が嫌いだった。

でも死ぬ勇気もない俺自身が嫌いだった。

そんな事を思いながら、俺立花駿は17歳になっていた。


「しゅーん。はよ!」

「野中、おはよう。今日も元気そうだね」


こいつは野中寛人。俺が小学生の頃から仲良くしてくれる。

こんな俺をよく知る1人だ。

俺は野中と一緒にいるのが1番気楽だった。

野中は何も言わずに俺と一緒に居てくれる。

こんなつまらない俺とよく一緒にいてくれると本当に感謝しているくらいだ。


「野中くん、おはよー。」

「おーっす。」


そして、とてもモテるのだ。

野中といると黄色い歓声が多く聞こえるのだ。


「相変わらずモテるね、野中は。」

「いやぁ、お前も大概だぞ?」

「何を言ってるんだよ。こんな俺を好きになるやついないだろ。」

「お前ってやつは…高嶺の花ってのを知らんのかね。」


何やら言ってるけど、野中に言われたくない。

俺は基本的に人と関わるのが苦手だ。

だから教室の隅で読書をするのでいつものルーティーンとなっている。

そんな俺がモテるとか見当違いにも程がある。


「そんなこと言ってないで教室行くよ。」

「ったく。だからお前が好きなんだよな、オレは!」

「はいはい。」


何気ない会話。何気ないやり取りをしつついつもの様に校門を通ろうとしたその時。


ーきゃぁぁあああああ。


女生徒の悲鳴が聞こえた。

その方を振り向いた俺は一瞬何が起きているか分からなかった。

俺の目の前には猛スピードでこちらに向かう車がいた。

間に合わない…それはすぐに理解できた。

でも、それと同時にこいつは…

野中は死なせちゃいけない、それだけは譲れない。

体が自然と動いていた。

ーどんっー


「しゅーーーん!」


生きてる…野中は生きて、幸せになるんだ。

俺の目には泣きながら手を伸ばす野中の姿があった。

それが俺が最後に見た景色だった。

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