6話 後輩と卒業公演

一二月二四日Xmasイヴ。


 秋葉原の街はXmasカラー一色に彩られていた。




街中では、カップルが多く見受けられた。


 気まずい。この場から離れたい衝動に駆られる。




「先輩、お待たせしました!待ちましたか?」上機嫌なその声に振り向けば、後ろに春風が立っていた。




「いや、今来たところ」と俺は男女の待ち合わせシチュの常套句を言う。


(今日は、やけにお洒落だな)




春風と、『放課後シスターズ』の劇場へと行く。


そこには、巨漢のドルオタからもやし体系のヒョロ男と会場は、冬だというのに熱気に包まれていた。


「ヤバっ!先輩、ヤバいですよここ!なんだか臭いし!」


「いや、普通じゃね?劇場ってこんなもんだぞ。」


アイドル劇場の初心者の春風には、刺激が強すぎたか。女性なら驚くよな




「おお、佐藤氏来たでござるか!拙者、楽しみでござるよ!」


「そりゃあ、俺だって楽しみですよ、太巻さん」


「なんたって、未来たんの卒業公演ですからね」




「先輩、お知り合いですか?このキモ...」と春風の言葉を遮るようにすかさず彼らのことを紹介する。




「ここで俺に、挨拶してきたのは、『放課後シスターズ』を共に推している、ドル友の少しおデブな太巻きさんにヒョロイ体格の細田さんだ」




「佐藤氏、隣に居る可憐な女子はもしや、佐藤氏のコレでござるか?」


と太巻さんはは右手の小指を立てる。




「ち、違いますよ!会社の後輩ですから彼女では、ないです!」




「いやいや、それはないでしょー!今日が何の日か知ってて言っているんですか?」


細田さんがさらに追及してくる。


「未来たんの卒演ですよね?」


それ以外にないだろう?




「佐藤氏今日は、Xmasイヴでござるよ!この日に一緒に居るということは?!」




「ただの後輩だ。」


それ以上もそれ以下でもない。何が可笑しなことを言っただろうか?




「まあ、そういうことにしておきましょう!太巻さんも、あまり詮索しないように」




こうして、開園まで、雑談は続くのだった。




 未来たんの卒業公演が始まる。未来たんがセンターで最後の晴れ舞台に歌い踊っていた。


野太い声援を上げてオタ芸を披露するオタクさん達。




佐藤もオタ芸を披露する。それに、ついていけない春風。




無事に卒演は終わった。ライブの次は一人一人の握手会となる。




佐藤は、未来たんに「これからもキミの人生を応援している。これからも頑張って」と


伝える。




本音が言いたくても言えない未来たん。




「君は本当は止めたくないんじゃないのか?」と佐藤は問うも時間が来て剥がしスタッフから「はい、そこまでです」と言われて剥がされる。




未来たんの本音が聞けないまま握手タイムは終わる。






モヤモヤした気持ちのまま、その場を後にする佐藤と春風。




「先輩お疲れ様です!先輩のオタ芸、クネクネしていてキモかったっスね!」




「うるせーよ!一人だけ棒立ちだったくせに」




           


「し、素人なんだから仕方ないじゃないですか!」




「それよりも、先輩、明日の予定は配信見る以外無いんですよね?」




「まあ、そうだけど。それがどうしたんだ?」


「わー、寂しー!せっかくのXmasにクリボッチとかないわー」




「なんだよ、そういうお前はどうなんだよ!」




「わ、わたしは一人で宅配ピザ頼んでクリパしようかなと」




「そっちの方が寂しくないか?!一人でクリパとかじゃなくてぼっち飯だろ!」






「そんなこと言うなら先輩、わたしと付き合ってくださいよ~」


「お、俺がお前と聖夜を過ごせと?」


そ、それは、どういう意味でだろう?




「春風、お前意味わかって言っているのか?」




「それはもう、わたしと先輩の仲なんですしー、先輩後輩の関係でしょ」




「そうだよな。むしろ聖夜までお前の面倒を見ないといけないのか......」




「違いますよ!クリボッチしている先輩が可哀想なので、わたしが、デートに誘ってあげるのですよ!そこ、勘違いしないでください」




「何様だよ!」




「にひひーw」と不適に笑う春風にイジられるのだった。


こうして、春風とのイヴの卒演も終えて一緒の電車に乗り、帰路へと着いた。








            ***






春風と駅で別れて、酷い、疲労感を感じ夜の公園に缶コーヒーが飲みたくて一人、訪れてたら、ベンチに中学生くらいの女の子が一人座っていて、こんな遅い時間に一人で危ないと思い声を掛ける。




「君一人?子供がこんな時間に危ないよ」


夜に、JCに声を掛けるとか不審者かよ!と自分自身に突っこむも、それ以上に、本当に不審者の被害に遭ったら大変だ。




「失礼ですね、わたしは子供ではありません。こう見えて二十歳の大人なんですから!」


と胸を張る少女。


 たしかに胸は急こう配で起伏があり確かに、大人だった。




「あれ、あなたはあの時の!卒演の握手会に来てくれた人ですよね?」




「?卒演!?もしかして、あなたは!?」




「はい、『放課後シスターズの叶羽未来です!今日は来てくれてありがとうございました!」


なんと、オフの未来たんと遭遇してしまった!


アイドルを辞める理由を語り始める。


「電車で痴漢にあってからライブや握手会で男性ファンの前に立つ時に


自分の体を性的な目で見られているんじゃないかと怖くなってしまってアイドル活動を続けていくのが難しくなった。」




ライブと握手会の時も、怖かったけど、我慢していた。




だけど、アイドル活動が嫌になったわけではないから、これからは顔出ししないで、Vtuberアイドルとしてネット上でゲーム実況や配信をしてアイドル活動していく。と語る。


根はオタクだから、そこは苦じゃない。むしろオタ活で、Vtuberとして活動できることが嬉しい。




そこで、営業や交渉の場でクライアントとの間に立ってくれるプロデューサーになって欲しいと佐藤に頼む。




「なんで俺には平気なの?」




「それは、握手会で、あなたが一番誠実そうで、わたしのことを変な目で見ないでいて誠実そうと思ったからです」と理由を告げられるのだった。




社畜の俺が推しの元アイドルの新人Vtuberのプロデューサーに任命されてしまった!?


            ***

読んでくれてありがとうございます。

本作は、『びじょおし』のIFストーリーとなっています。

お楽しみください!







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