5話 イヴの約束
一二月の初旬、二四日のXmasイヴに、『放課後シスターズ』を卒業した叶羽未来の卒業公演が公式writerで発表された。
この知らせを受け、佐藤は朝から舞い上がっていた。
未来たんの最後の晴れ舞台を観に行こう。
それが、彼女のファンとしての責務だと感じていた。
ウキウキ気分で朝食を食べた。
いつもは、憂鬱な朝食も今日は、気分がいい!
テンションが冷めやらないうちに会社に出社すれば、春風から、ハイテンションな声がかかる。
「先輩!もうすぐクリスマスですね。イヴの予定とかはあるんですか?!無いですよね!」
「勝手に決めつけるなよ!」
陰キャだからって予定が無いと思うなよ!
「ボッチの先輩のことだからどうせ、一人、部屋で配信見て、やけ酒飲むクリボッチですよね!」
突然、春風からイヴの予定を訊かれる。ヴァカめ。俺がイヴに予定が無いだろうと高を括っているのだろうが俺には、未来たんの卒演に行くという大事な予定がある。
この流れはもしかして? 例え、春風にデートに誘われたとしても、行くわけないだろう。
「あるぞ、予定なら」
俺の意外な返答を訊いて、春風は、開いた口が塞がらない。
「うっ、えぇ!!予定あるんですか!?」先輩、言っておきますけどいつもの日曜日じゃないですよ、Xmasイヴですよ!」
「分かっている」
どうだ、思いもしていなかった応えにぐうの音も出まい。
「どうせ、一人で、パソコンの前で、ITuberのXmas配信を観るんでしょ?!寂しすぎますよ」
「ふっ、違うんだなー」
それは、去年までの俺だ。今までは、XmasイヴとXmasは未来たんのXmas配信を観て
淋しさを紛らわせていた。でも、今回は、未来たんの卒演を観に行くというファンとしての使命がある。
「じゃあ、どんな予定なんですか?!」
「それはだな。推しのアイドルの卒業公演に行くんだよ!」
「アイドルの?先輩、ドルオタだったんですか。じゃあ、わたしも一緒に行きます!」
「なにが、じゃあなんだよ!え!?お前も来るのか?!」
予想していなかった春風の応えに声が上ずる。
「いけませんか?いいじゃないですかー別にー!二人で観に行った方が面白いですよー!!」
「わかった、勝手にしろ!」
素人の春風がドルオタの中に混ざるのは、思うところがあったけど、本人がいいならいいのか
とここは、折れることにした。
「やったぁ!」満面の笑みで喜びを表現している春風を見ていたら、これもまたオタクの布教活動みたいなものだ。お前をドルオタに染めてやるからな
こうして、春風と未来たんの卒業公演を観に行くことになった。
これって、実質、デートなんじゃ......
Xmasイヴという特別な日に男女でアイドル公演とかドル活デートじゃないか!
という浮かれた考えは心の内に閉まった。
「先輩、イヴの予定は分かりました。二五日のXmasの予定は無いんですか?」
「いや、別に、これといって無いな」
俺の本命の予定は、二四日の未来たんの卒演のみだ。
Xmasは例年通り、未来たんのXmas配信を観て、彼女の卒業の余韻に浸るつもりでいた。
「クリボッチですね先輩!うわー、寂しー!」
「う、うるせー!そ言うお前はどうなんだよ!」
「ふふーん、秘密でーす!」
「どうせ、お前も何も予定が無いんだろ?人のこと言えないな」
どうせ、Xmasの予定が無いことを隠しているんだろうな。
そして、昼休み。俺は、毎日恒例となった、
春風からの手作り弁当。
「先輩、今日の分です。どうぞ」
「ああ、ありがとう。いつも悪いな」
今や、毎日、春風から、弁当を作って貰っていた。
後輩女子から手作り弁当は軽い、優越感に浸っていた。
きっと春風は、不摂生な俺を見兼ねて、弁当を作ってきてくれているんだ。
他意は無いだろう。
そこへ、男性の先輩社員がやってくる。
「春風ちゃん、クリスマスの予定はある?もし良かったら俺と……」
春風の胸を見ながら言ってくる。
デートに誘って、いったいナニをする気なのだろう?
「すいません、近藤先輩その日は、予定があって……」
「そ、そうだよね!Xmasイヴだし、彼氏と過ごすよね!」
彼氏って誰の事だ?春風、そんな相手いたのか。
「そんな、彼氏だなんて。まだ。違いますよ!」
春風は照れて、近藤の肩を強めにバシンと叩く。
「まだってことは、これから先、可能性がかあるってことだよね!頑張って!」
「そんな、近藤さん、そんなのじゃでないですから!」
「うちの会社のマドンナを射止めるなんて、彼氏はどんな奴なんだ!」
「だから、彼氏じゃないですから!」
否定しているのに嬉しそうだ。春風も相手に好意を持っていてまんざらでは無いのだろう。
「お疲れー、どうした近藤。春風にデートの誘いか?」
「ちがうし!それよりさ春風ちゃんが好きな人がいるんだってさ!」
「おお、良かったな。春風、どこのアイドルが好きなんだ?」
推し活は大事なことだ。日々の灰色の日常をカラフルに彩ってくれる。生きる上で欠かせないものだ。
「芸能人じゃなくてー!」
あなたのことですよ!この鈍感主人公ー!
まさか、自分が春風の意中にあるとは、露ほどにも思わない佐藤だった。
***
読んでくれてありがとうございます。
お待たせしましたよろしくお願いします
次回、Xmas編スタートです
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます