太陽風にあおられて



”太陽は一つとは限らない”


 そんな彼とも、大学を辞めてから久しく話さなくなった。

特に理由はない。

ただ、話す機会がなくなっただけである。


結局私は大学を卒業することができなかった。

というより卒業するまでにかかる時間を考えたときに、働いた方が早いという結論に達した。

そう自身に言い訳つつも先生や親への申し訳なさは消えなかった。


大学時代に検査を受けてわかったが、私はどこかおかしいらしい。

端的に言うと、ADHDというやつだ。

うまくいかない理由もすべてそこに落とし込むことはできるが、それはさすがに

虫が良すぎる。


大学を中退したのち、就労移行支援とやらを利用することになった。

就職のための学校のような場所らしい。


母とともに通所するための面談に行く。

受付の人に案内され建物に入ると、所長らしき人が挨拶をした。


「こんにちは」


椅子に案内され、一呼吸置いたのち面談に入る。


「なるほどなるほど、そういう事情なんだね。」

「うちはそういう特性を持った人たちが集まるところなんですよ。」


あくまで”障害”という言葉を使わないのが福祉施設らしい。

しばらくここに来るメリットや就職した人が何%だとかの話をした後こう聞かれた。


「君はどういう職業に就きたいの?」

「せっかく大学まで行ったので、学んだことが活かせる仕事に就きたいですね」


嘘っぱちだ。

すべてSの受け売りだ。

自分がここに来たのはこれしか道がないと思ったからで、本心からの言葉は出てくるはずがなかった。


「そう、じゃあ一緒に頑張ろうか。」

「じゃあ中をを案内していくね。」


所長について行って中を見回る。

中の人たちのほとんどは特に何かを抱えているようには見えなかった。

だからこそつらいのは自分自身が一番わかっている。


「こんにちは、見学に来たAです。」


そこには同じような苦しみを持った人がたくさんいた。

そして全員が全員、光を欲している。

彼ら自身のハンディキャップが彼らの魅力を隠してしまうのは大げさでなく

シェイクスピアでもかけない悲劇だ。

恋や友情の板挟みなんかではない。

自身の特性のために苦しみ、周りから煙たがられる。

そして何よりの悲しみは客観的に見たときに、相手の反応は適切以外の何物

でもない点だ。


小柄な女性の近くにハンカチが落ちていた。


「すみません。このハンカチ落ちてたんですけど、あなたのものですか?」

「…」


彼女は無言で後ずさる。

どうやら人と話すのが怖いらしい。

スタッフらしき人がフォローに入る。


「違うそうです。こちらで預かっておきますね。」


自分には自分の不得意が、相手には相手の不得意がある。

それをどこまで認められるかがその人の器の大きさだ。


通所初日、説明を一通り聞いたあと、自身のスキルを鑑みると1年以上は

就職できないだろう。

実際その通りになった。

その間も私のバーチャルは続いていた。


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