彼方からの光
太陽は周りの星たちを容赦なく照らす。
周りのことなど考えずにひたすら強く輝き続ける。
光をかき消された星々のことなど目には入らないのだ。
ただし世の中には稀有な人もいるもので、優しい太陽
輝く手助けをしてくれる”月にとっての太陽”も確かに存在した。
大学生の頃の話である。
私の人生はうまくいかないことばかりだった。
それに関して考え続ける時期があった。
考えつづけると、暗い考えが精神を蝕んでいくものである。
雨だれ石を穿つとはよく言うが、少々水の量が多かったらしい。
「死んでしまいたい」が「死んだ方がいい」になり、「死ぬべきだ」になるのに
そこまで時間はかからなかった。
気が付いた時には睡眠薬を常用するようになり、部屋は荒れに荒れ、
荷造り用のビニールひもを持って外に駆けだしていた。
ボロボロになった私は自殺未遂を起こし、気が付くと病院にいた。
家族が心配そうに、優しく声をかけてくれる。
摩耗して、何も感じなくなった心に涙が染みこんで、それが瞳にあふれていく。
よくわからないが私は大変なことをしたらしい。
不幸中の幸いか、それとも神様の当てつけか後遺症は全くなかった。
不思議と事を起こした後は平穏な精神状態で、入院中の暇な時間を持て余すほどで
あった。
入院生活は1週間で終わり、依然と同じ日常が戻ってくると思っていた。
-外に出られない-
外に出ようとすると心臓が締め付けられるような気分になるのだ。
そんな状態なら当然不登校になる。
2年ほど大学に行けない時期が続いた。
その2年間が私の誕生日だった。
そういった人間はリアルではなくバーチャルに存在を求める。
私が昼夜問わずネットに入り浸るのに時間はかからなかった。
音声通話アプリで会話しながらゲームをする。
”もちろん現実は忘れて”
こんなに楽しいことはなかった。
皮肉なことに人と話すのが苦手だった私の悪癖は、ネットにどっぷりつかることで
少しずつ改善していった。
そして意外なところに太陽はあった。
Sと出会ったのはちょうどネットを始めたころ。
最初の印象は賑やかで面白い人という印象だった。
彼の過去の話になった。
「俺、高校生の時アメリカに留学してて日本に帰ってきたんだよね。」
「へぇ、帰ってきてからの大学生活はどんな感じ?」
「それがさー、みんな帰国子女みたいな扱いしてきてだるいんだよね。」
「なるほどねぇ…」
「でもせっかくほかの人より英語できるから、それが活かせる職業に就くつもり」
「例えばどんな?」
「留学してた時の友達から誘われたので言えば、クルーズ船の船員とか?」
「大変そうな職業だね」
「確かにそうだけど、面白そうだしやってみたいなって」
「いろいろ考えてるんだね」
彼の陽気さにそして時々見える思慮深さに、私は興味を持った。
そして、彼自身の性格も相まって仲良くなるのに時間はかからなかった。
ただ表面的な”私”の事はいくらでも話したが、一番肝心な部分は1年以上
言えずじまいだった。
その状態は一言でいえば小康状態、虚空に体を預けて休める時間だった。
あるとき彼に聞かれた。
「そういえばお前就活は?」
青天の霹靂だった。
背筋に冷たいものが走る。
冷や汗が止まらない
すべてを話して楽になりたい気持ちと話して関係性が変わってしまう不安が
混ざり合って、甘苦い味を醸し出している。
「いい感じだよ」
消え入りそうなほど声はかすれていた。
「お前嘘つくと途端に声小さくなるよな」
図星というほかなかった。
「……」
何も言い返せない。
考えもまとまらず、いつもより強く心臓の鼓動を感じる。
ただわかっていることは、この先どうやっても彼との関係性は変わって
しまうということだけだった。
当たって砕けるしかない。
彼にぽつぽつと現在の状況を伝える。
「え?それやばくね?必修も取れてないってコトじゃん」
「うん…そうだね…ごめん」
「とりあえず謝る癖やめな」
「うん…」
「お前面白いから大丈夫だよ。それに1年行ってないならだれも
お前のこと覚えてないって」
彼なりの励ましを受けてその日は終わった。
結局その後も相変わらず大学には行けなかった。
学業に励んでいるにしては不自然な時間に二人とも集まる。
しかし、理由はそれぞれ正反対で、私は現実逃避、
彼は必要な単位をすべて取ったからであった。
普通に考えれば私の状況は想像に難くなかっただろう。
彼は私の事を気遣ってかそれ以降学校の話をしなくなった。
だが、変わったと感じたこともある。
時々、彼から生きるための処世術を教わるようになったのだ。
「いいかお前、ごめんなんて言われたら相手も気を遣うだろ?
ありがとうで済むところはありがとうでいいんだよ」
「そんな暗く考えても自分も周りも辛いだけだぞ。
明るく考える訓練をしたら?」
彼はきっと海の底に沈んでいく私を引き上げようとしてくれている。
他人から言われればむっとしてしまうようなことも、
彼ならなぜかすっと腑に落ちた。
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