流れ星の住処

@Kuritake55

暮夜

 人には様々な種類がいる。

そして人の数だけがある。

時には赤く、時には青く、時には強く、時には淡く

様々に混ざり合い、そして光り輝く。

地球というキャンバスの上に我々を彩った神様は偉大な芸術家だ。


天の川に比べればちっぽけだが、それでも私たちは確かに星なのだろう。

人は太陽であり、月であり、そして流星だ。

ビルの合間を星たちは駆ける、まるで流れ星のように

たとえ、それが明日消える流れ星…

それも小さすぎて、最期ですら別の光にかき消されてしまうようなものであったと

しても。


 世の中には、最初から…いやともすれば最期まで輝けない星もある。

そして意外と多い、自分から輝ける星なんてほんの一握りだ。

私もそんな日陰者の一人だ。

絵にかいたような根暗で、幸せが三行半を突き付けてくるぐらいには

笑顔が苦手だ。

笑顔は人のすべてを代弁する。

笑い方、しぐさ、声色…すべてで人の内面を表現する。

人の輝きは笑顔に集約されるのだろう。


激しく乱高下する内面とは裏腹に、私の顔は氷像のように凝り固まっている。

表情を忘れた人間には…色がない。

いや、色が

透明ですらない、空虚だ。



あたりに夜のとばりが落ちる。

窓の外には一等星たちが粉雪のように瞬いている。

余りのまぶしさに急いでカーテンを閉める。


 私は”置物”だ。

周りから見れば、と静まり返ったただのオブジェクトでしかない。

自らを輝かせようと奮起してみても、わずかにすら光らない。

不燃ごみでできた私は、命を燃やすには値しない、流れ星になってもうまく

輝けない…

きっとそんな星だ。


イソップ童話の登場人物に、負け惜しみを言って去っていく狐がいる。

「あのブドウは酸っぱいに違いない」

今は、その一言すらいえずにいる。

わかったふりをして、ただひたすらに御託を並べている。

負け惜しみすらいえない負け犬がここにいた。

存在するかしないかで言えば、そこに確かに存在はする。

が、だからと言って何になる。



 昔の話、私の過去の話をしよう

私がまだ幼かったころ、子供の頃の話だ

昔から周りに合わせるのが下手で、友達もおらず、かといって周りからいじめられるわけでもない、周りにとって影でしかなかった。

誰が影を気にするものか?

踏もうが踏まれようが誰も気にしない。

存在しているがゆえに空虚で、輝くどころか光とは対極にいるものだった。


だからこそすべてに輝きがなかった。

人並みに楽しんだはずのイベントごとは、ほかの光に照らされることなく

役割を終えたように頭の中でくすんだままだ。

運動会、文化祭、修学旅行…

楽しかったという記憶はあるが、私だけがいてほかの人がいない。



「文化祭の演劇みんなのおかげで大盛況でした!ありがとう!」


主演の子がみんなに向かって言う。


「舞台に出た人も、裏方の人も頑張ったよねー」


クラスの女子が遠くで話している。

そんな中、私の記憶に残っているのは話を聴きながら黙々と

後片づけをする自身の姿だけ。



こういう”モノクロ”の思い出ばかりが私のすべてだった。

暗すぎる星は誰も気が付けない。

自分自身すらも。


少し目が慣れてきたのでカーテンを開ける。

そこには月がすべてを照らしていた。

青白く、雄弁にこちらに微笑みかけてくる月も誰かの力を借りて輝いている。

太陽の光を我が物顔で誇っている月を見ると、少し滑稽に感じて頬が緩む。


「心から笑ったのは何年ぶりだろう」


 こんなからっぽは星と呼べない、星ができる前のただの塵だまりだ。

だから私はまだ生まれてすらいない。

私自身が一番、自ら光を発することを欲している。


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