第11話 面接と採用とお金
世間なんてそんなに優しいものなんかじゃない。
まずはお洒落なカフェの求人応募に電話をかけてみた。
すると、既に募集は間に合っていると言われ、断られた。
ここはオープンしたばかりだし、時給も高かったので仕方がないと思うことにした。
他のカフェにも電話をしたが、男で帝農大学の1年だというと面談をする前から断られた。
中には来てもいいけどぉといかにも面接をしても無駄という雰囲気をか持ち出して話してくる作用担当もいた。
それこそ、そんな面接に行くだけ無駄といういう物だ。
俺は電話を思い切りきって、その店には何があっても行かないと誓う。
俺はお洒落なカフェやレストランは諦めて、居酒屋に電話してみた。
すると今度は退社時間が早いと言われて断られた。
最低でも夜の11時までは働いて欲しいと言うのだ。
仕事内容もなかなか過酷だし、俺は居酒屋を断念することにした。
そしてついにコンビニ。
コンビニはさすがに面接までは話しがついた。
しかし、実際行ってみると生気のない店員が話半分で俺の質問に対する応答を聞いていた。
出来れば夜間の方が欲しいとか、接客の経験はないのかとか何かと文句を言ってくる。
何よりも土日の出勤が必須で出勤しろと言われると受け入れづらい。
俺にはサークルもあるし、学校以外の時間をバイトに使うきることは出来ないのだ。
何件かのコンビニを回ってみたがやはりどこも同じような感じだった。
なにより帝農大学というだけで懸念されるのだ。
「君、どのぐらい続けられるの?」
これがお決まりの質問。
どんなけ今までの帝農大学の学生に忍耐力がなかったんだよ。
この辺の企業からは、『帝農大学はやる気も低能』と呼ばれているらしい。
それがすごく悔しかった。
履歴書を見て、速攻でOKしてくれたのはパチンコ店の店長だった。
彼は面接中なのに煙草をふかして、見ているのか見ていないのかわからない表情で履歴書を見て、ほとんど何も聞かずにOKを出した。
土日だってたまには休みたいし、時間も授業があるから毎日18時には間に合わないといっても大丈夫だと言った。
とにかく人が欲しい。
それがこの店の事情らしい。
退社時間も俺の要望通り通り、思ったより好条件で受けてくれた。
パチンコ屋は意外と時給もいいのだ。
しかし、初めてみるとその人気のなさときつさを実感する。
入店は俺の大学の授業が終わったタイミングで入る。
用意された制服を着て、店内に出る。
出た瞬間に聞こえる凄まじい音。
昔とは違い店内は禁煙となっているので煙草くさくはないが、明らかにガラの悪い客が多かった。
店内に落ちた球を拾う客や態度の悪い客に注意すると逆に絡まれる。
たまに酔った客が入店してきて全力で追い返す。
この仕事が続かないのも理解できた。
結局、俺は53円で3日間を凌ぐことは出来ず、大事なエロゲーを売ることにした。
買った時は1万3千円。
しかし、売れたのは500円。
この落差は何だりろうと思った。
3日間を500円では足らなかったので、なけなしの漫画なんかも何冊か売ったがこっちの方がよっぽど金になった。
世の中なんて需要と供給だと思う。
なんとかかき集められたお金が1,250円。
俺はひとまずこれで食いつなぐことを決めた。
1食138円で済めば何とか暮らせる。
さすがに食堂に138円なんてないから、朝は120円5個入りのパンを半分食べて60円で済ませる。
食堂では200円のかけうどんで我慢。
かけ放題の天かすをこれまでかというほどかけて、いつも食堂のおばちゃんに怒られる。
隣で美味しそうな定食やラーメン、カレーなんかを食べている奴がいると睨みつけたくなった。
帰ったら、1食80円のインスタントラーメンにわかめをふんだんにかけて食べる。
それでも年ごとの男子には全然足りない食事量だ。
これでは勉学にもバイトにも精が出なかった。
俺が大きなため息をついていると、横からまどろみさんが現れた。
まどろみさんを見ながら、彼女は食事がいらないから羨ましいと思った。
俺みたいに始終腹を減らして唸る必要などないのだ。
そんな情けない顔をしていた俺にまどろみさんは笑いかける。
「お腹がすくのは頑張ってる証拠だよ、仲君!」
彼女はそう言ってグーサインを出した。
「人は元気がなくなるとお腹もすかなくなっちゃう。お腹がすくのは生きようとする生命力の現れなんだよ。だからね、バイトも勉強も、サークルも頑張って、楽しい大学生活にしよ!」
彼女は明るくそう言う。
そう言われても辛い事には変わらないじゃないか。
既に俺は値を上げたくなっていた。
「君のその経験は無駄じゃないよ。きっと今習っているその勉強もどこかで役に立つときがくる。すぐにはわからくても、自然にその知識は君を助けるよ。そして、そのバイトの頑張りも今後の君の人生と仕事に結びつく。君は人よりもつらい仕事をしているんでしょ? ならそれはそれだけ君が絶えられてきたと言うことだよ。今後君がカフェで働いたとしても、その力を発揮する時が来るよ。嫌な客が来た時、対応したことがない人たちは何もできずに縮こまるだけだろうけど、今の君ならもうちゃんと対応できるでしょ?」
そう言われれればそうだ。
オープンしたばかりのカフェに採用された人間はどれも可愛い女の子ばかりだった。
それは華やかで働いている方も客の方も喜ぶ。
けど、そんなに簡単に決まってしまった仕事は続かないし、きっと嫌なことがあったらあっさり辞めてしまうだろう。
だって、そんな好条件の若い子なんて他にもいくらでも雇ってくれるから。
雇われる側が雇う側に見切りを付けたらそこで終わりなんだ。
「まどろみさんもいろいろ大変な経験をしてきたんでしょうね?」
そんな言葉がはけるのは仕事の大変さを知った人間だけだ。
俺だってバイトをするまではまどろみさんの言葉なんて信じられなかった。
まあねと少し自慢げな顔をするまどろみさん。
「でも無理をする必要はない。ただ、簡単には諦めないで欲しい。その仕事が本当に嫌になったら辞めてもいいんだよ。けど、そこでもう自分は無価値なんだとか、働いても意味がないとは思って欲しくないんだ。本当は君のような人物を求めている人がどこかには必ずいるはずなんだから、進むことはやめちゃだめだよ?」
まどろみさんの話はいつも深い。
俺なんか人生経験なんてほとんど0に近くて、まどろみさんの感じている話の半分も実感できないけど、きっといつかは嫌でも思い知らされるのだろうなと思った。
その時にきっと彼女の言葉がしみてくる。
1人暮らしを始めてから俺がどれだけ学生の頃、親に甘えて来たのかを実感した。
お腹がすけば冷蔵庫には何かが入っていた。
決まった戸棚からお菓子を好き勝手に取り出して食べた。
時間になれば母ちゃんがご飯を作ってくれていた。
お腹がいっぱいになるまで食べるごはんがあった。
好き嫌い出来るほどの大盛りの食べ物がいつも大皿に乗っていた。
暑い日は冷凍庫からアイスを出して食べた。
おなかすいたぁって文句を言えば、ぶつぶつ言ってもかあちゃんが何か出してくれた。
それが当たり前なんだとずっと思って来たんだ。
だけど、いざ1人になるとそれがすごく贅沢な事なんだとわかった。
お金のない人間に現実はシビアだ。
今日も俺はカップラーメンを食べる。
そして、明日も元気に大学に行って、帰りにはバイトに向かうのだ。
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