第6話 サークル勧誘
指定の教材は思いのほか多く、鞄はすぐに重くなった。
更に選択科目の教科の教材も買わばければいけないのだから、入学早々教材貧乏になりそうだ。
その前にバイト先も決めないとと思いながら、校門に向かう道を歩いていた。
よく見ると目の前には多くの学生たちが集っていた。
サークル勧誘だ。
道の端には長机を並べ、一部の生徒はユニホームをきて、段ボールで作った看板を掲げている。
俺はそれに巻き込まれないように縮こまって、校門までの道を歩いた。
目の前を歩くスーツ姿の学生たちが次々にサークルの勧誘に巻き込まれていた。
声をかけられたり、無理矢理ビラを渡されたり、入部届を突き出して強引に名前を書かせようとしている人もいた。
俺はそういう輩に絡まれたくないと思いながら、下を向いて歩いていたが、なぜだか俺には勧誘もビラの手渡しもなく、完全に空気とかしていた。
時々、目線も合わせずにビラを配って来る人もいたが、めぼしい生徒を見つけると渡すことも忘れてそちらに飛びついて行った。
サークルにも勧誘されない俺はいったい何なんだろうか。
俺がイメージしていたキャンパスライフとあまりに違い過ぎた。
そんな時、俺の耳元にこんな言葉が飛び込んできた。
「幽霊とか信じますか?」
俺はつい、その声をする方に顔を向けてしまった。
そこには怪しいビラをっ持った学生が一人立っていた。
ここに来て初めて声をかけられたんじゃないだろうか。
彼は確かに俺を見て話している。
しかもつい俺も、『幽霊』という言葉に反応してしまった。
「うち、オカルト研究サークルやってます。君、こういうの興味ない?」
彼はそう言って近づいてくる。
こんな多くのサークルに囲まれながらも全然声をかけてもらえなかったのに、なぜかオカ研にだけ声をかけられるだなんて、俺はそんな陰気な雰囲気を醸し出しているのかと不安になった。
俺的には自分は割と明るいタイプに思っていたと言うのに。
「いや、オカルトはちょっと……」
どう考えても怪しすぎるサークルに後退る俺。
こんなサークルに入ったら、それこそ友達なんて出来そうにない。
いろいろとヤバそうな活動もしてそうだし、ホラースポットとか行く気もない。
「あなた、幽霊とか見たことないの?」
断ろうと必死に両手を振っていた俺の後ろから女性のそんな言葉が聞こえて来た。
振り向くと女性の顔がすぐそばにある。
黒髪ロングの美人。
スタイルも良く、学科の彼女ほどではないがなかなかの巨乳。
身体にフィットしたセクシーな服装にミニスカートから覗くいい感じの太もも。
それだけでごはん3倍はいけそうな色気だった。
俺は驚いて、彼女から1メートルほど離れた。
これ以上そばにいたら、本気で鼻血が出て来そうだった。
「ねぇ、見たことない?」
彼女はもう一度聞いて来る。
見たことはある。
ってか、まさに今、俺の部屋にいる。
しかし、そんなこと言ったら、絶対にオカ研に入らされ、俺の部屋を物色されるだろう。
それだけは避けたかった。
「見たことないです! オカルトとかも興味ないですし」
俺は強張った声で答えた。
女性は残念そうな顔で見つめてくる。
そんな彼女を見ると断るのがちょっと惜しい気がした。
このサークルに入れば、おまけにこの先輩がついてくるのだからだ。
「そうなの? ざぁんねん」
彼女はそう言って、オカ研の机に設置してあったパイプ椅子に座って足を豪快に組んだ。
見えそうなのに見えない。
それがもどかしかった。
「オカルトってさぁ、偏見も強いけど実際は秘学、神秘、超自然的なものを指す言葉なんだ。必ずしも怪しい事ばかりしているわけでもないよ」
最初に話しかけて来た学生がそう言った。
彼はオカ研といっても、それほど陰険なイメージはない。
夜な夜な魔術とか呪術とかいって、部屋でこもって魔方陣とか書いていることもなさそうだ。
「そうは言っても、目撃談とか、非科学的な事件が起きた時は調査なんかするけどね。面白いわよ。夜中に廃ビルに忍び込んだり――」
「桜坂先輩!!」
にやにやしながら話す女性の言葉をその男子学生が必死で止めていた。
女性は桜坂先輩というらしい。
恐らく男子学生が先輩と呼んでいるのだから、3年生ぐらいだろう。
「いいじゃない、菱田君。オカ研の良さをもっと知ってもらいましょうよ」
「桜坂先輩が話すと全然良さが伝わらないんですよ!」
その男子学生は菱田と言った。
彼はおそらく2年生だと思われる。
そんなところに飲み物を買って来た学生が2人近寄って来た。
俺を見ると嬉しそうな顔をして近づいてきた。
「おお、ついに新入部員ゲット?」
そう声をかけて来たのは、やせ細った背の高い猫背の男子学生だった。
顔色も悪いし、オカ研らしい部員だ。
もう一人は小太りの背の低い男子学生だ。
こちらは大人しいのか俺を見ても何も話さなかった。
「沖原君、私のルートビアン買って来てくれた?」
桜坂先輩がやせた学生の方に話しかけた。
彼は沖原というらしい。
「先輩、ルートビアンなんて飲むの先輩ぐらいっすよ。普通の学生はコナ・コーラとかペプスコーラとか買うんですから」
「いいの。私はこのルートビアンが口に合っているのだから」
彼女はそう言ってその場で缶ジュースを開けた。
菱田さんも沖原さんからお茶をもらっている。
「で、入ってくれるの?」
沖原さんは俺の顔を見て聞いて来た。
俺はぶんぶんと顔を横に振った。
すると残念そうに顔を歪ませる。
「なんだ。ちょっと期待したのにな」
確かにこんな場所で棒立ちしていたら興味があるように見られてもおかしくない。
俺はその場から離れようと、後退った。
するとその小太りの男子生徒が俺の裾を掴む。
逃がしてくれないと言うことだろうか?
俺は真っ青な顔で彼を見つめた。
「なんだよ、岸部。そいつになんかあるの?」
それに気が付いたのは沖原さんだった。
彼は岸部という名前のようだ。
彼は黙って頷いた。
すると、それを見た桜坂先輩が興奮したように顔を赤らませて、笑った。
そして、椅子から立ち上がると俺の前に立ち、ネクタイを掴み上げる。
この光景は正に女王様と下僕。
俺にはSMの趣味はないのだけれど、実際女王様を目の前にすると若干興奮した。
俺ってほんとバカ!
「君、本当は見えてんじゃないの? 幽霊とか妖怪とか妖精の類とか」
見えているけど、ここで頷くわけにいかない。
岸部さんはいったい俺の何を見たと言うのだ。
「み、見たことないですよ、そんなの。俺、霊感とか0だし」
「霊感なんて関係ないわよ。見える時は見える。見えない時は見えない。それだけよ」
それ、もう幻覚なんじゃないですか?と言いたかった。
しかし、実際は霊感のない俺もまどろみさんが見えているのだし、先輩が言っていることも強ち間違いではない。
それでも絶対、まどろみさんのことは言いたくなかった。
そんな俺を助けてくれたのは、菱田さんだった。
先輩と俺の間に入って、その掴んだ腕をのけてくれた。
「桜坂先輩、やりすぎですよ。そんなことしてたら、余計に新入部員入って来ないじゃないですか」
「岸田君、そんな弱気でいるから部員が集まらないのよ。部員集めとは争奪戦。のんびり構えてたら、新入生なんて皆他の部活に取られちゃうだから!」
先輩は不満そうな顔を岸田さんに向ける。
岸田さんもまあまあと先輩を宥めていた。
するとそこに1人の女子生徒が現れた。
彼女の手には既にサークル入部届が持たれていた。
「あのぉ、私、オカルト研究サークルに入りたいんですが」
そこに立っていたのはあの巨乳の同じ学科の大人し系女子だった。
俺は驚き、声が出なかった。
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