第11回 文章は「野菜」?

 今回のお話は、私のお仕事での経験上の文章に対する考え方です。

 もちろん文章に対するスタンスは人それぞれの考えがあると思います。

 あくまでも私個人の視点からの話なので「私はそれは違うな」と思ったら、その考え方を大切にしてください。私はそれを否定するつもりはありません。

「あなたはこう思うんだね、でも私はこう思うよ」という自分の意見を持つのは勇気のいることですが、あなたの文章をより良くしてくれるものだと考えています。


 私は、文章を書くお仕事を「農業」あるいは「畜産業」だと思っています。

 よく「自分の作品は大切な子供のようなもの」という思考を持っている方を見かけます。

 でも私の仕事は、その「大切な子供」を産むたびに他の人間(依頼人)に譲り渡すものです。しかもお金と引き換えに。

 もちろん自分の作品に愛情がないわけではありません。譲渡した子供が引取先でひどい目にあっていたら怒ります。

 ただ、私にとって「子供」を「出荷」するという行為に違和感を持っていて、どちらかというと丹精込めて育てた野菜とか家畜を出荷している感じ。農家だって、出荷した野菜をぞんざいな扱いされたら怒りますよね。そんな感覚なんです。


 そう、文章って「商品」なんです。

 小説はある程度著名な作家なら仕事を選べるのかもしれませんが、私は下っ端シナリオライターなので依頼人に頼まれればその通りに作るしかありません。そして書いたものを納品(出荷)する。私の作ったものが納品先で良い評価を受けることを願いながら。

 流行りジャンルを忌避する動きもありますが、私に(そして依頼人に)とっては流行りジャンルというのは金のなる木、稼ぎ時のチャンスなのです。しかも読者が飽きたらすぐに終わってしまうバブルです。そのバブルを逃さないように、流行ってる間にできるだけ商品を投入しようと躍起になります。


 それが小説投稿サイトでも似たりよったりのジャンルばかりになる要因だと思っています。流行ってるジャンルは書けば書くほど評価がもらえる。読者が増えればアクセス数も跳ね上がり、カクヨムの場合はリワードを稼げる。ジャンルが偏るのは困ったものですが、この偏りも流行りの変遷と同時に変化していくものなんじゃないかな。


 何が言いたいかというと、文章という「商品」を扱ううえで、ご自身のスタンスを確立したほうがいいんじゃないかな、と思っているのです。

 私のように文章を「商品」として捉えるならば、商品が売れるためには何が必要か分析する必要があります。

 ファッションのように流行りを掴んで売れ筋の商品を作ったり、季節ごとのアイテムを取り揃える(文章で言うならタイミングを掴んだ小説を発表する)といった売れるための工夫が必要になると思います。

 逆に、流行りにはノリたくない、自分の文章を大切にしたいという方は無理に流行りに乗る必要はないと私は考えています。

 文学・文芸のように美文を追求したり、繊細な心理描写などを得意とする方は流行りジャンルと相性が悪いと思いますし、なにも小説を発表する場はカクヨムだけとは限りません。そういった文章がウケる他の投稿サイトを探してみたり、出版社の公募に送ったほうがいいかもしれませんね。

 あるいは、単に趣味として小説を書いている方は自分の書きたいものを書き散らすのが一番いいと思います。この場合、一番なにも考えなくていいかもしれません。


 文章の世界というのは、人によってその側面を変えます。

 それが文章というものの懐の深さかもしれませんね。

 皆様が楽しく書く読むライフをお送りできれば幸いです。

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