第18話「ゼス一行、近衛隊長と一緒に門番ンタン改め悪魔アイバキップと戦うのこと。(中)」
「ふっ、はっ、ちっ!」
巧みに剣を操りアイバキップの攻撃を凌ぐロベンテ。彼としてもここで死ぬ気はなく、とはいえ攻撃に転ずるには難しい状況だった。
「ふんっ、それっ、甘いわっ!」
一方で、大味ながらも攻撃をし続けることで優位を保つアイバキップ。とはいえ、手を緩めたら攻守逆転が起こり得るのは火を見るよりも明らかな拮抗した実力差であり、アイバキップもまた焦れていた。
「せいっ!」
「なんのっ!」
打ち合いは数えること、およそ数十合。ロベンテは確実に悪魔アイバキップに追い詰められていた。なぜ、肉体的に劣るはずの悪魔アイバキップがン・キリの雷光ことロベンテ・トゥオーノに勝りつつあるのかは定かではないが、彼は決定打を失いつつあった。
「どうだ、どうした、もうおしまいか!」
高らかに笑いながら嵩に懸かって攻め立てるアイバキップ。だが、
「ちっ……この手だけは使いたくなかったんだが……」
ロベンテはまだ切り札を残していた。そして彼の知性と戦術眼は、今こそそれを使うときであると告げていた。
「ほう……まだ奥の手を隠し持っていたか、気丈よの」
一方でそのロベンテをせせら笑うアイバキップ。無論、少々の小細工ならば彼は踏みつぶすつもりでいた。一方でロベンテは、
「じゃあな、アイバキップ」
とつぶやくや一目散に逃げだした!
「って、オイィっ!?」
さすがにあきれ返るアイバキップ。無理もあるまい、ここで「逃げる」という選択肢があるなんて、彼も思っていなかったからだ。
「いいか、戦場で生き残る術はただ一つ、強い敵とは戦わないんだよ!」
走り去りながら、どこかで聞いたような兵法を吐き捨てるロベンテ。それは、確かに真理ではあった。
「お前っ、さっきまでの態度を考えてそれはないだろ!?」
一方で、面食らいながらも慌ててロベンテを追い始めるアイバキップ。かくて、ロベンテにとっては本日都合数度目の持久走が始まった。アイバキップも、つられて後を追いかけていた。と、その時!
「かかったな、アホがっ!」
おもむろに何かの出っ張りに体当たりしたロベンテ。それに対して追いかけるチャンスだと判断したアイバキップ。だが、
「なん……どうわっ!?」
突如として横殴りのハンマーに思い切り殴られるアイバキップ。それは、言うまでもなく罠であった。むしろ、刃物でないだけ有情ともいえた。
「ここをどこだと思ってやがる、ン・キリの王宮だぞ?俺がどれだけこの王宮で勤務し寝食を積み重ねたと思っている!」
それは、戦場をよく知る者特有の判断力であった。アイバキップにとってここはビジターであり、ロベンテにとってはホームグラウンドであった。その地形効果は、確かに彼に味方した!
「卑怯だぞ、貴様ーっ!!」
横殴りのハンマーに思い切り殴られたかと思うと、棘付きの落とし穴に落ちたり、思いきり滑って転んだり、てんやわんやのアイバキップ。気付けばロベンテを見失いそうになり、慌てて後を追いかけるも、それによってさらに加速度的に罠にはまる始末。
「へっ、どっちがだよ!」
そして、アイバキップはロベンテを見失った。
そして、ロベンテが逃走してからしばらく後。
「っと、この辺だな。いるんだろ、坊主に嬢ちゃん!」
走っている間だったからか、足踏みをしつつスキマに隠れていたゼスとクヴィェチナを呼び止めるロベンテ。
「……あの……」
「あなた、本当にロベンテさん?」
さすがに、先ほどの
「他人の空似に見えるか?」
「いえ、見えないわね」
「だったらいいだろ、で、何人くらい集まった」
と、ロベンテが尋ねるや、
「隊長!」
「ご無事で!」
数十人ほど当直の近衛兵が駆け込んできた。それを見てニカっと笑ったロベンテは……。
「おう、今頃あの悪魔は罠でひぃひぃ「言うと思ったかぁっ!!」……げっ」
……さすがに、罠如きでは悪魔の進軍を止めるのは難しかったようである。とはいえ、矢が刺さっていたり煤けている部位があったり、傷だらけであることを見ると相当なダメージは追っていたと思われる。
「お遊びはここまでだ、今度こそ貴様を屠ってくれるわああっ!!」
罠によるダメージの結果、相当なストレスとフラストレーションがたまっていたのか、完全に憤っているアイバキップ。それは、裏を返せば冷静な判断力を喪失していると言ってもまず差支えなかった。
「ま、そう簡単にはくたばってはくれないよな……坊主に嬢ちゃんは引き続き人員を集めてくれ、俺達はここで食い止める!」
俺「達」。都合、数十名の近衛兵をかき集めたロベンテはさらに人員を募ることを前提に、アイバキップに対して遅滞防御を決め込んだ。無論、あわよくば討ち取るか捕らえる予定である。
「は、はいっ!!」
気丈にも、返事をするゼス。一方で、
「なんともやれやれだこと……」
完全にロベンテの行動にあきれ返ったクヴィェチナもまた、人員を募るために奔走し始めた。
一方で、痩蛙亭では。
「……ごめんなさい、亭主さん」
ルーチェは、ひそかに宿を脱出し、王宮へ向かった。……そう、ゼスとクヴィェチナ、そして"隊長さん"を助けるために
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