第12話「ゼスとクヴィェチナ、誤認逮捕をされるのこと。」

 一方、王宮では……。

「大きい……」

 思わず、王宮の大きさに驚くゼス。無理もあるまい、彼が今まで見たどんな建物よりも、それは大きかった。

「そう?

 そんなことより、こっちよ」

 一方で、何度か王宮を見たことがあるのか、手慣れた反応のクヴィェチナ。彼女は的確に、論文提出先に近い入口を見つけたようだ。

「あ、うん」


「おう、誰でぇ」

 詰所の兵士が妙な顔でゼスたちをにらみつける。

「ビダーヤ村のゼスで「ビダーヤ村村長の娘、クヴィェチナと申します。この度は師の論文を届けに参りました。お通しくださるかしら?」……えっ」

 ゼスが自己紹介を言い終わらぬうちに、途中でクヴィェチナが割って入る。その必殺のよそいきスマイルは通常の相手であれば一瞬だけでも魅了することができただろう。

「お、おう。隣の坊主は護衛か何かか?」

 案の定、たじろぐ兵士。魅了とまではいかないものの、思いの他改まった挨拶に面食らったようだ。

「はい、こう見えて村一番の剣士、ゼスと申します」

「えっ、あの……」

 ゼスも戸惑っていた。勝手に村一番の剣士にさせられた上に、突然クヴィェチナの態度が豹変したのだ、戸惑うのも無理からぬことであった。

「いいから、あわせて」

 小声で囁くクヴィェチナ。それは、いわばクヴィェチナの幼いながらも処世術と言えるものであった。

「は、はい、イリサバ流剣術ゼンゴウのゼスです!」

 それは、一応嘘ではなかった。何せ、ゼンゴウの腕前の証明である腕輪をしていたのだ、それはゼスの証言よりもよほど説得力があった。

「ほう、ゼンゴウの腕前ね。……イリサバ流?どっかで聞いたような……まあいいか。

 分かった、いいだろう。ついてきなさい」

「「はーい」」


 そして、王宮への門が開かれた!


「どうした、ンタン。そんな子供なんて連れて」

 ンタン。王国号がン・キリという名前である通り、この地方ではンから始まる名前は特に珍しくはなかった。

「なんでも、村のおっしょさんの論文を届けにお使いに来たらしい。本当なら無碍にはできんし、嘘だとしても重要な部分を見せなければ叩き出すだけで済むだろ」

「それもそうか。そいじゃ、警備の交代の時間じゃないな?」

「ああ、まだ寝てていいぞ」

「あいよ、じゃあお休み」

「おう」


 しばらくして。

「さて、ついたぞ」

 ンタンと呼ばれた兵士に連れられてゼスたちが来たのは……。

「あの、ここって……」

 ゼスの目の前に映るのは、間違いなく人が何人も入れなさそうな牢屋であった。そこには、論文提出のための窓口どころか、本一冊すらありそうになかった。

「論文の名義が見えたのでな。お前らのようなクソガキがこともあろうにゲヘゲラーデン様の論文を正規の依頼で持っているわけがないな?どこで盗んだ」

「なっ……!!」

 あまりにも厚顔無恥な兵士の言葉にさすがのゼスも顔を真っ赤にし、クヴィェチナに至っては猫を被るのも忘れ、

「そんなわけないでしょう!?あたしのししょーがそんなバカバカしいことするわけないじゃない!」

と怒りを顕わにするのだった。だが……、

「バーカ、お前らのような村人が、しかもガキがゲヘゲラーデン様の論文を所持していること自体、怪しすぎるんだよ!

 即刻死罪にならないだけマシだと思え、しばらくそこで頭を冷やしてるんだな!」

と、兵士はまるで取り合ってくれない。そうこうしているうちに別の兵士がやってきた。

「おい、どうした」

「おう、このガキどもが寄りにもよってゲヘゲラーデン様の名を偽って盗んだ論文を提出しようとしたんだ。

 しばらく牢にぶち込んでおくから確り見張っていてくれよ?」

「おう、わかった」

 こと、ゲヘゲラーデンの名声はここでは裏目に出た。確かにその論文は正規の依頼品ではあったのだが、そもそもゲヘゲラーデンの論文を文字もロクに読めなさそうな子供が所持していることが問題と言えば問題であった。

「こ、このっ……」

「後できちんと取り調べはしてやるから、今はおとなしくしてろ。殺されたくはないだろ?」

「こ、こんなことしているとししょーやパパが黙ってないわよ!?」

「はいはい、わかったわかった。きちんとそういうのは取り調べでいうんだぞ」

 そして、牢屋のカギが重々しく閉められた。

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