第11話「ルーチェ、魔力欠乏症に罹るのこと。(後)」
「とはいえ、感染症ではなく魔法が使えるのならば魔力欠乏症という可能性もある。この薬で治らなかったら、そっちを疑った方がいいかもしれん」
「魔力欠乏症?」
「ああ、ひょっとして知らんのか?魔力を乱発したり強力な魔法を使ったりして、魔力が体内に不足すると起きる症状でな、魔力というものは規定量以上体内にない場合は神経が不安定になるからそう呼ばれている。魔力回復薬なんて通常の手段ではめったに手に入るものではないから回復方法としてはしっかりした宿屋で安静にしている他ないんだが……」
「いえ、名前は知っていますが、今までなったことがなかったので……」
魔力欠乏症の存在は知っている。それを聞いて意外そうな顔をするロベンテ。ただ、まだ何かしら疑問点があるのか質問の内容を変えることにした。
「そうか。……そういえばお前、さっきの戦闘で回復魔法を何回使った」
「えぇと……正規の回復魔法を1回、範囲回復魔法の初歩を2,3回といったところでしょうか」
と、ルーチェが言い終わらぬうちにみるみる顔をしかめるロベンテ。その表情はしゃべりながらルーチェが泣き顔になる程恐ろしい顔であった。
「それを先に言え!初歩と言えど回復魔法を範囲で使ったりなどしたら普通は翌朝まで安静にしていないと使いもんにならん!さらに正規の回復魔法を使った!?……ああもう……回復魔法ってのはな、瞬発的な魔力消費量こそ少ないものの、消費持続時間が長いから問題なんだ……。……十中八九、魔力欠乏症だな。魔力は回復剤もあるが、貴重な薬品で近衛兵如きでは手に入らん。幸いにして命に異状はないから、数日横になれば治る」
頭髪をかきながら苦悩を顕わにするロベンテ。無理もあるまい、魔力欠乏症は酷ければ目覚めたら気付けのために神官が立っていた、などということも考えられる症状であり、現状は通常、自然回復しか方法がないため非常に厄介な「病気」であった。
「そう、ですか……」
昏い顔をするルーチェ。一方でロベンテはそのルーチェにかなり強い口調でこう告げた。
「全く、よく生きてたよ、お前……。いいか、回復魔法の使い手は貴重だ、ここで可惜潰すわけにはいかん。宿代は出す、休んでいけ」
「そんな、悪いですよ!」
「阿呆、回復魔法の使い手が貴重なんだ。回復魔法の使い手はいざ何か起こった際の国家資源に直結する。特に、お前みたいな若い、将来有望な者はな。こういったところの宿代を出すのは俺の厚意ではない、折角の回復魔法の使い手を潰さないための、国家維持のための税金消費だと思え」
「なおさらに、まずいんじゃないでしょうか……」
自身の身に税が使われる。先程までの熱っぽい顔に加えて青ざめるルーチェ。
「大丈夫だ、ここのヤセガエル亭の主は多少「あこぎ」なところもあるが、サービスの質は本物だ。俺の名前を出していれば、きちんと適正料金で泊まることができるだろう。そんなことより、ゼスとかいうのが論文を届けている間暇だろう、少しの間でいい、昔話をしよう」
「昔話、ですか?」
「ああ」
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