第5話「ゼス一行、パーティーを組み旅立つのこと。(後)」

 そして、夜が明けて旅立ちの準備も終わり、ゼスたちが旅立つ日がやってきた……。


「行ってきまーす!」

 元気よく行ってきますと声を上げるはゼス。クヴィェチナもにこやかな笑みを浮かべ、ルーチェも何かに安堵したかのような笑みを浮かべていた。

「怖くなったらすぐ帰ってくるんだぞー!」

 笑いながら茶化すはゼスの父。彼の母親は出産時の体調不良で死んだと伝えられており、兄弟もいない彼にとっては父は唯一の肉親であり、兄的な存在でもあった。彼は村でも真っ先にゲヘゲラーデンから魔法を学んだ身であり、男手一つでゼスを育てたことからもわかる通り、ある程度の実力者なのだがあくまで一線は退いた身であった。

「……父ちゃん……」

 こんな時までふざけてるよ、この父親は。そういった様相で顔に縦線を浮かべつつ、額に手をやる。そして村から出終わらぬうちにクヴィェチナが声をかける。

「ねえねえ、ゼスくん、これから何しよっか」

 クヴィェチナは遊ぶ気満々だった。せっかく村の外に出たんだからとウキウキ気分で歩いている。

「遊びに行くわけじゃないんだよ?」

 一方で、年長者らしく手綱を締め始めるゼス。無理もあるまい、彼にとっては初めての村の外であり、何回か親同伴とはいえ王宮にご機嫌伺いに行っているクヴィェチナとは経験の差が存在した。

「でも、せっかく村の外に出たんだもん、何かしたいじゃない」

「でも……」

 と、その時である。ルーチェが突然立ち止まり目を見開いた。

「ん?どしたの?」

「何か来ます、身構えてください!」

 彼女は、内気な者特有の勘働きに基づいて何者かの襲来を予見した。その、歓迎されえぬ来訪者とは……。

「何か、って……」

「まさか、モンスター!?」

「がばーっ!!」

 モンスターがあらわれた!

「きゃーっ!」

「村の外からいつか人間が出てくるだろうと思ったら案の定出てきたっス、ここはひとつ首を刈り取って並べ、目の前で血をすすり肉をかっくらってやるっス!」


 人獣、ショケンネズミ。ジセキやジセキモドキに比べてはるかに強く、「ショケンネズミ」の異名も常人が出会ったらまず死んでしまうくらいの強さであることから、「常に初見」である「ネズミ」から名付けられたモンスターである。本来ならば群れて行動するモンスターであり、一匹だけ出てくるのは珍しかったのだが、村から出て十分少々経った程度で出現したことを考えれば、ビダーヤ村を偵察中だったのだろうか。もちろんそれは彼らには知る術のない情報なのだが。


「こっ、こんなにすぐにやられてたまるかー!」

 たまらず、態勢も整わぬまま剣を抜くゼス。ゼンゴウの腕前では人獣相手には不足しているが、事情が事情である、本来ならばそこまで格上の相手とは言い難かった。

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