第47話
朝は昨晩のシチューと、母さんにお弁当を作った。
中身は鮭と昆布の入ったおにぎり二つと、なすを甘く煮たもの。それからまだ余っていた冷凍食品のハンバーグ。揚げ物が作れるようになれば、変わるのに。
それを見た父が笑顔になった。
「へえ、陸がこんな弁当を」
「そうよ。高校生になって随分助けて貰っているの。心も体もどんどん成長しているのよ」
「そっかぁ。そっかぁ。父さんのは?」
間の抜けた声にイラッとする。
「父さんは今日家にいるの」
「ああ。今週はな」
「じゃあ、家にあるもの適当に、勝手に食べていてよ。留守番よろしく」
父さんは自分の弁当がないのを残念がっている。
「そんなぁ、陸は父さんに冷たいなぁ」
これからは父さんの分の料理と弁当を作らなければならないのか。そんなことを思いながら学校へ行く。
蓮が挨拶をしてきた。
「おはよう。昨日はありがとう」
「いいってことよ。お? なんかその腕時計、良さそうだな」
本当はしてこないつもりだったけれど、バイトのことを考えると腕時計があるのは便利だと思って、つけてきたのだ。
「ああ・・・・・・」
「なにかいいことでもあった?」
「父さんがいきなり帰ってきた」
「えっ? 野本君のお父さんが帰ってきたってよ!」
川島君が叫ぶと、みんなまた俺の周りに集まりだした。
「お父さん帰ってきたの? よかったじゃん」
「これでお母さんも野本君も安心じゃない?」
よかったな、とみんな口々に言う。俺は笑顔でお礼を言った。
父さんが帰ってきたのは、よかったことなのか・・・・・・? いや、いいことなのだろうけどこのまま無職でいられても困るぞ。内心不安になるが、それも話を聞く必要がある。
「今日の晩に家族で話をするよ」
言うとみんなワイワイと俺の家庭のことで騒ぎ出す。もちろん、ポジティブにだ。
「陸、嬉しそうだな」
蓮が言った。
「え、そう? いきなり帰ってこられて迷惑なんだけどそう見える?」
「迷惑ってそんなこと言ってやるなよ。雰囲気が昨日までより柔らかくなっているのと、さっき口元が笑っていたぞ」
無意識では嬉しいのだろうか。確かによくよく考えてみると、母さんが一人で頑張らなくてすむかもしれないと思うと少しだけ安心している。そして生きていてくれてよかったとも思っている。
「あ、そうだ。葵ちゃんにこれ渡しておいて。かなりボロボロで嬉しくないかもしれないけれど、書き込みしてあるところは絶対役に立つから」
俺は蓮に、自分が中学の時に使っていた参考書を渡した。
「お、サンキュ。あいつ今、遅れを取り戻そうと必死に勉強している」
「そうなんだ」
まずは、葵ちゃんの学力を見ることが先だ。土曜日は軽く様子を見てみよう。
「まだネットで悪口書かれたりしているみたいだけどな、本人は気にしていない様子だ」
「学校へは?」
「行ってない」
「そっか。まぁ、その辺のケアもしていかないとな」
「本人は陸に教えて貰うこと、楽しみにしている」
「俺は少し緊張している」
仲良くなって、優しく教えていこう。
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