第43話


「師匠! こんな風にバースデーパーティーができるのなら、もう一年四組料理部は再開してもよろしいのではないでしょうか」


青木君が大きな声で叫ぶ。すると蓮は答えた。


「おう、そろそろ再開させよう。次の月曜から」

「なにを作りますか」


蓮は今までのようにニッと笑って親指を立てる。これはもはや蓮のポーズだ。


「よし、グレードアップさせよう。揚げ春巻きだ。安い食材で作れる」

「やったあああああああ!」


男子のそんな声が聞こえて、あちこちから拍手が沸き起こる。うちのクラスの拍手は、肯定の意味なのだな、となんとなくわかるようになってきた。


「揚げ春巻きなんて食べたことないよ」

「マジで?」


蓮はびっくりした様子で俺を見る。


「マジマジ」

「春巻きの外見くらいは知っているだろ?」


俺は数ある料理の記憶を探る。だが、どこにもない。


ゼックでも春巻きは扱っていなかった。


「全然想像がつかないや」

「じゃあ、それは作ってからのお楽しみだな」


揚げ春巻き。どんな食べ物なのだろう。お金に余裕があるから材料はたっぷり買える。


「あ、そうだ。教えて欲しいことがあるんだけど」

「なに」

「朝オムライス風の卵料理を作ったら、包むの失敗したんだ。今度綺麗にできる方法教えてよ」

「わかった。こればっかりは体と慣れで覚えていくしかないからなぁ。じゃあ、土曜にうちで葵の勉強見て貰うときに教えるよ」

「うん。よろしく」


広瀬先生がやって来て、俺と香川君、加原さんに言う。


「みんな、誕生日おめでとう」


大人からそんなことを言われたのも久しぶりだ。小六の時から誕生日が来ても、母さんはなにも言わなくなった。そして母さんの誕生日が来てもお互いなにも言わない。それだけ生活に余裕がなかったから。だから、こうして誕生日を祝って貰えるのも、小学生以来なのだ。


「ありがとうございます」

「十六歳を楽しんでね」

「はい」


十六歳を楽しむ、か。そうだな。人生は一度きりしかないのだ。ちゃんと楽しんで、前を向いて歩いて行こう。俺の十六歳は、最高にいい年になりそうだ。


いつまでも楽しい日々が続きますように。

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