第31話
ゴールデンウィークも明け、小テストにも追われながら一週間が過ぎた。
「そろそろ部活じゃないけど一年四組料理部を開始しようよ!」
小テストが終わった開放感が教室に和みをもたらしている。今は放課後だ。
教室で川島君が大声で言うと拍手が沸き起こった。
きっと一年四組料理部が、みんな楽しいのだろう。
視線は一斉に蓮に向く。
「おう、そうだな・・・・・・」
蓮は小さく言い、教壇に立つ。
「じゃあ次の水曜は、かんぱちの茶漬けにでもするか。時期も時期だし食いやすいぞ」
クラスからどよめきがあがった。かんぱち? バイトで習って知り、スーパーで見たことがあるけれど高かった。お茶漬けは美味しそうだけれど、かんぱちは高くて買えない。
「この時期に朝からかんぱち持って来て放課後までおいておくのは流石に傷むと思うよ」
竹中君が気楽な様子で言う。俺も手を挙げた。
「材料費の安いものでってお願いしているから。かんぱちは高いなぁ」
一パック五枚入りで六百円くらいのを見たことがある。
もうすぐバイト代が入るけれど、まだ間に合わない。
「それもそうだな。ごめん。じゃあ――」
なんだか蓮の様子が変だ。ゴールデンウィークの少し前も、うちに来たときも思ったけれど、どことなく元気がない。
というより今日は上の空だ。
「すまない、忘れて。今頭がまとまらない。水曜は休ませてくれ。それじゃ」
クラスが静まりかえるが、蓮は気にしない様子で荷物を持ち、教室を出て行く。
今日のお弁当も、いつもの蓮にしては彩りがなかった。生姜焼きと、ひじき、黒豆、ご飯。
生姜焼きは生姜と醤油の味がきいていたし、黒豆も甘く煮られて絶品だったけれど、どこかいつもと違うなと感じられた。違うとすれば蓮の心になにかあるのだろう。
「どうしたんだろう、なにかあったのかな」
福井さんが心配そうな表情をしている。
「野本君、なにか聞いてない?」
小寺君も心配したのか、俺に訊ねる。
「いや、俺はなにも・・・・・・」
クラスが蓮のことでざわめいている。なんだ。なんだ。なにがあった。
昼の弁当に違和感を持った時、ちゃんと有耶無耶にせず聞いておけばよかった。これは、追いかけなければいけない案件なんじゃないか。
「俺、あとを追うわ」
鞄を持つと、走った。多分なにかに悩んでいるのだ。友達が困っているのなら助けなきゃ。散々助けて貰っているのだから。
五月の日差しは少し強くなっていた。立ち仕事のバイトと、きちんとした食事がとれているおかげで体力もついてきている。前なら少し走っただけでバテていたくらいなのに。
蓮は駅に向かってなにか、急ぎ足で歩いているところだった。
追いつく。見失わなくてよかった。全力で駆け寄り蓮の肩を掴むと、びっくりしたように振り返った。
「なんだ、どうしたよ」
「それはこっちの台詞。なにがあったんだ」
「別になにも・・・・・・」
「嘘つくなよ。俺たち親友だろ? なにか問題を抱えているのになにも言わないなんて水くさいぞ。抱え込まずに俺に言えよ。できる限り力になるから」
立ち止まって喋っていると、クラスの子たちも大勢駆けつけてきた。
蓮はあっという間に囲まれる。
「なにがあったのか、私たちにも話してよ」
潮崎さんが息を切らせて、言った。蓮は少し困ったように眉根を寄せた。
「・・・・・・妹が三日ほど帰ってこないんだ」
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