第28話


部活じゃないけど一年四組料理部のグレードが上がった。


水曜日は餃子の作り方を教えてもらったので、帰って母さんに作る。


この短期間で色々なものが作れるようになった。煮物は、醤油と砂糖の他に、お酒とみりんを入れればいいことも蓮から教わる。


ゴールデンウィーク明けに、五教科の小テストもあったので料理部もしばらく休みとなった。


通帳を作り、店長に渡す。二十九日に働き、三十日から二日までは学校へ行き、三日四日にバイトをする。母さんはやっぱり仕事だ。時は忙しく流れていった。


五日は家にいられた。初夏が既にやって来ている。


家に一人で、なにもない一日だ。予習も一年生のぶんは全教科終えた。もう二年生の勉強を始めてしまっても構わないかもしれない。


「なんか俺、せっかくの休みなのにバイトと勉強しかしてないよな・・・・・・」


自室の机で呟く。明日からはまた学校だ。クラスの子たちとどこか遊びに行きたいけれど、なにしろお金がない。でも、遊びに行っている子たちもいるのだろう。



バイト代が入るようになったら誰かと遊びに行けるだろうか。まだ慣れていないから疲れも残る。早く慣れて、全ての作業をこなせるようになりたい。



今日はよく晴れている。勉強をやめてどこか散歩にでも行こう。



そう思うとふと、携帯から着信音が鳴った。


蓮からだ。


「もしもし陸か」

「うん。どうしたの」

「おまえんとこの最寄り駅にいるから、今から家に行ってもいい?」


思いもかけない言葉に少し慌てる。


「えっ、なんでうちを知っているの」

「求人誌もらっていた時聞いたじゃん」

「あ、そっか」


ゴールデンウィーク前には、蓮にいつ休みかとさりげなく訊かれていた。


「まさか最初から、家に来る予定だった」

「おう、ちょっと驚かそうと思ってな」

「先に言ってよ」

「ごめんごめん。で、家どこ? なんかひとつコンビニがあるけど・・・・・・」

「ああ、迎えに行くよ。少し待って」


急いで散らかった部屋を片づけ、コンビニの前に行く。すると蓮が両手一杯に布製の袋をぶら下げて立っていた。俺が手を挙げると蓮は気づいて笑顔になった。



横断歩道の信号が青になると渡って俺のもとまでやって来る。


「よう、久しぶり」

「そこまで久しぶりでもない気がするけど・・・・・・スーパー寄ってきたの」

「一年四組料理部がしばらくできなかったから、陸にロールキャベツの作り方を教えようと思って。今キャベツが新鮮だぞ」

「え。いいの? でも材料費は」

「だからそんなのいらんって。それより、お母さんに食わせてやれ」

「うん・・・・・・」


いつも悪いなぁ。でも、俺より母さんに栄養をとって貰いたい。一応は以前よりちゃんとしたものを食べているのに一向に体に肉がつかないのだ。仕事で摂取カロリーをすぐに消費してしまうのだろう。


家に案内すると、蓮は家の外観を見ていた。クリーム色の外壁だ。


「立派な家だな」

「家だけはね・・・・・・小学生の時にこの家に越してきて、ローン残したまま父さんが消えたから、ローン返すのにいっぱいいっぱい」


父さんの置いていった三百万ももう尽きかけている。


「そうなのか・・・・・・」


鍵を開けリビングに入って貰うと人の家が珍しいのか眺め回している。


「蓮の家はどんな感じなの」

「うちはマンション。横移動が楽だよ」

「マンションにも憧れるね」

「マンションって意外に狭いぞ。窓ない部屋もあるし。あ、テーブル借りていいか」

「どうぞ」


蓮は袋から材料を取り出し、テーブルに並べている。


「それ、どこで買ったの? まさか蓮の地元から?」

「ん? 違うよ。この駅近くのスーパー」


いつも俺が行っているところだろう。


「ほい、コンビーフおまけ」


そう言って缶詰を渡す。


「貰っていいの? 前くれたレシピにあったけど、高くて買えずにいたんだ」

「コンビーフが高いかぁ」

「高いよ」 


蓮と俺の間には、金銭感覚のズレがあるようだ。


「必要なときに食えよ。それじゃまず手を洗わせて貰おうか」


リビングを出て洗面室に案内し、タオルを貸す。しばらくして戻ってくる。


「で、どうすればいいの」

 

俺も腕をまくり、台所で手を洗う。

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