第26話


食べ終えて片付けをしていると、蓮が大きなタッパーを持ってやって来た。


「余ったやつ、持って帰れ」

「え。俺帰ったら作ろうと思っていたけど・・・・・・」

「持って帰る子もいるみたいだぞ?」


余るとわかって持って来たのか、タッパーやフリーザーパックに詰めている子をちらほら見かけた。


「陸は持って来ていないだろうと思って」

「うん。ほんと、作るつもりだったから」

「食費浮くだろ?」

「ありがとう。それじゃあ持って帰るよ」

「カレーは菌が繁殖するから、すぐに食べなければ冷蔵保存しといてな。じゃがいもも傷みやすいから気をつけて」

「うん」


俺はありがたくタッパーを受け取る。そして狭山さん、菊池さん、小寺君を見た。


三人は首を振る。


「私たちはいらないから、野本君、たくさん持って帰って」


お礼を言って、タッパーにカレーをたくさん入れる。こういうの、意地汚く見られるのかなぁ、とふと思う。バイトの廃棄品持ち帰りも。


でも。ふと、店長の言っていた社長の言葉を思い出した。


――食べられるのになぜ捨てる。


そうだよな。捨てるのももったいないよな。


そう思い直すことにして、玉ねぎとじゃがいもを入れていた布袋にタッパーを入れる。


「今日もおいしゅうございました」


小寺君が手を合わせる。俺も真似た。


「おいしゅうございました。ありがとうございました」


狭山さんと菊池さんは、笑っていた。



みんなと別れて家に帰る。やっぱり俺、成長期だ。


食べたばかりなのにおなかが空いていたので、ご飯を炊き、カレーをレンジで温めると、昨日買ったトンカツを六等分にして、カレーのなかに三個カツを入れる。楽しみにしていたことの一つだ。


カレーの海の中に、カツがある。カツがカレーの茶色に染みこむ。母さんも早く帰ってくればいいのにと思いながら、カレー味のカツを食べる。


うん。カレーならいくらでも腹に入るな。カツのおかげで空腹も満たされる。


ペロリと平らげた。


まだ食い足りない。でも欲をかいたら食費が出ていく。我慢しながら、キャベツの千切りに励み、他の野菜も切って混ぜ合わせる。今日の朝よりはより細く切られるようになった。


なんだか刻み癖がついてくる。切りたい。もっと上手く切りたい。ご飯でおなかを満たす代わりに、そんな欲求が湧いてきた。でも、これも我慢。


風呂掃除をして湯をはり、自室で勉強をして風呂に入る。出たらもう十時。母さんはまた十一時過ぎに帰ってきた。


倒れる前より遅くなっている。部屋の電気を消して、慌ててリビングへ降りる。部屋が明るくなった。



「ごめん、また遅くなっちゃった」

「今日学校でカレー作ったんだ。余ったの持って帰ってきたから、カツカレーにして食べて。今用意するね」

「ええっ、カツカレー?」

「うん。昨日バイト先でカツを買っておいた」

「嬉しい」


母さんは洗面室に手洗いをしに行く。


俺はカツとカレーをレンジで温めながら、顔には出さず内心では苛立っていた。母さんではなく母さんの仕事先に。従業員酷使させるなよ。酷使するならせめて残業代出せよ。


なにサービス残業させているんだよ。倒れた人間の健康や人生なんてどうでもいいのか。


ああ、苛々する。


母さんが戻ってくると俺は再び笑顔を作って、カツカレーを出す。


「カツは一枚百九十八円だったんだ。俺と半分こ。安いだろ」

「ほんと、安いわねえ。もっと高いところだと四百円近くするわよ。頂きます」


相変わらず顔色は悪いけれど、カツカレーを食べると少しだけ血色がよくなった。温かいものを胃に流し込むって大事だ。


そういえば、ゴールデンウィークが近い。母さんも流石に休めるだろうか。でも。なにか厭な予感がする。土日は休みだけれど、祝日は会社へ行っているからだ。それに去年や一昨年は、どうだったっけ。俺もいじめられて精神が参っていたので、あまり母さんの状況を思い出せない。思い切って訊ねてみることにした。


「ゴールデンウィークは休みだよね?」

「土日以外全部仕事よ。日曜は出勤になるかも」

「嘘だろ? 少しは休めよ」

「休みたくても休ませてくれないのよ・・・・・・」

「その分の給料は出るよね」

「バイトと違って時給換算じゃないから。いつもと同じよ」 


溜息が出そうになるのを我慢する。美味しく食べて貰いたかったからだ。


ブラック企業なんて全て潰れてしまえ。

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