第24話


朝はキャベツの千切りを練習しながら目玉焼きを作った。


キャベツは相変わらずまだ太いけれど、初めての時よりは細くなっている。もう少し頑張れば上手く切れそうだ。


バイトへ二回行ったあとの学校は、なんだか見慣れた景色が続いてほっとしている。


先に調理室へ向かうと、既に何人かのクラスメイトが冷蔵庫に材料をしまっていたので、俺もジャガイモと玉ねぎをわかりやすい位置にしまい、教室へ向かう。


ドアを開けると、既にほとんどの生徒が来ており、竹中君が俺に気づくと席から大きな声で言った。


「野本君、バイトどうだった?」

「即決だったよ。金曜と日曜働いてきた」


するとクラスから歓喜の声が上がった。

「野本君おめでとう!」


みんなが口々に叫ぶ。


「ありがとう。でも大げさだよ」

「いや、バイトもなかなか決まらない人っているみたいだからね」


佐伯さんが言った。俺は席につくと、一時間目の教科書を取り出す。


この学校、バイト禁止じゃなくてよかった。わりと自由な校風だし、様子を見る限り他のクラスの生徒も穏やかだ。まぁ、全てを把握しているわけじゃないから、どこかしら闇はあるのかもしれないけれど、俺のクラスはみんな明るい。これからギスギスするなんてこと、なければいいけど。


蓮がチャイムの鳴るギリギリでやって来た。


「おはよ」

「おはよう、珍しいねこんなギリギリに来るなんて」

「ちょっとな」


なにかあったのだろうか。だが訊く暇もなく担任が来てしまった。


バイトの疲れもあってか、授業中は眠かった。けれど、なんとか耐えて、授業中に教師の言ったことを一度で覚えるようにする。


予習をしているから理解も追いつく。勉強は楽しい。けれど、卒業後働くとなると、熱心に聞かなくてもいいのかなぁ。将来はどうするか。


昼休みになると、蓮が変わらずほかほかの弁当を持って来てくれた。だが謝られる。


「ごめん」

「どうしたの」

「今日は朝ちょっと妹と言い合いになって」

「妹、いるんだ。ギリギリできたのもそれが原因?」

「ん。それで、下ごしらえする時間がなくなって、冷凍食品を使った。本当は全部手作りしたかったんだ」


見るとミートボール二つに、魚のフライ、グリーンピース、チェリートマトが入っている。なんらいつもと変わらないように見える。


「作ってくれるだけで十分だよ。贅沢すぎるし。どれが冷凍食品なのかもわからないし」

「ミートボールと、白身魚のフライ、グリーンピースは全部冷凍食品。ほんとごめん」


俺は笑った。


「冷凍食品でこんなに作れるんだ。これなら俺もできるかも」

「でもなぁ、あんまり冷凍食品使うのも体によくないからな」


蓮は言って自分の分の弁当を食べ始める。内容は全く同じものだ。


「そうなの」

「やっぱりバランスよく作ったほうがいい」


うーん。でも、冷凍食品で弁当が作れることを教えてくれた蓮に感謝だ。たまにつけるテレビで冷凍食品で作る弁当特集をやっていたけれど、俺の頭は素通りしていた。これまで思い出すこともなかった。


「蓮のおかげで自分の中のレパートリーがどんどん増えていく感じ。ありがとう」

「そう言ってくれると助かるんだが・・・・・・バイトはどうだった」

「即決で、クラスのみんなも喜んでくれた。でも慣れないから疲れるね」


まだ昨日の疲れが残っている。立ち仕事は意外に体力を使うものなのだ。


「よかったな。無理はするなよ」

「うん」


金曜と日曜だけでも、小遣い以上のお金を稼いだのだ。これは給料日が楽しみだ。


あれ。シメはいつで、いつ支払われるのだろう。今度通帳を持っていったときにでもタイミングよく聞いてみないと。


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