第21話


朝は、昨晩貰って来た春雨サラダと春菊のサラダ、そしてレンジで温めたハムカツをいつもの黄色い五角形の皿に盛った。盛り付け次第で見栄えがよくなる。


母さんは午前中に洗濯物を干し、昼は俺がなんとか作れる袋ラーメンを茹で、わかめともやしをトッピングする。


午後になると母さんはまだ本調子ではないのか部屋に入って昼寝をしてしまい、俺は集中して五教科の復習と予習をする。予習は高校生になる前の春休みからどんどん進めているからもう、一年が学ぶ範囲の終わりにさしかかっている。化学が意外に面白い。


バイト代が入ったら、もっと詳しいことが書かれた参考書を買ってみよう。


三時頃に、なにを作るか考える。レシピ本を見てみると、俺にも作れそうなものがあった。三色そぼろだ。


スーパーへ買い出しに行く。キャベツを切る練習をしようと思って、半分にカットされたキャベツをカゴに入れる。にんじんと大根はまだ家にある。


月曜日のためにジャガイモと、タマネギ。あとは一番安い卵と、半パックで割引されている牛挽肉、でんぶ、ツナ缶を買う。


帰って、台所に買ってきたものを並べた。味付けはどうしよう。でんぶは甘いから、多分、他は甘くしないほうがいい。牛挽肉と、卵は塩こしょうで軽く味付けしよう。



俺はご飯を炊くと蓮に教えて貰ったとおり、野菜を切る準備に入る。キャベツを洗って細かく切るように心がけるが、まだ太くなってしまう。なかなか切るのが難しい。にんじんと大根をスライサーで切り、細く刻んでキャベツと混ぜ合わせる。多めに作った。



こうすることによって潮崎さんのアドバイスどおり、明日の朝サラダとして出せる。


五時過ぎに、母さんがリビングへやって来た。日が落ちてきたので、一部屋分の電気をつけるためだ。うちは新聞も取っていないしテレビもほとんど見ない。


母さんは、ふふ、とたまに笑いながら俺が作る様子を見ている。


早速三色そぼろに取りかかる。卵を三個ほど溶いて、塩こしょうをかける。どう細かくしようかとしばし考え、菜箸を四本使うことにした。フライパンに卵を敷くと、菜箸四本でぐるぐるとかき混ぜる。


スクランブルエッグ状態になるが更に熱していくと、乾いた薄い黄色に変化しぽろぽろになった。卵のいい香りがしている。箸の先端に卵がついてしまっていたので、スプーンでとることにして、別のフライパンで今度は挽肉を箸でぽろぽろになるまで混ぜる。これで終わり。


食器棚を見ると、片手にすっぽり収まるくらいの小さな青いどんぶりがあった。これが良さそうだ。ご飯を丼の中で平らにしていき、箸を乗せて、箸の線に沿って卵を乗せていく。真ん中にでんぶ、右側に挽肉。黄色、ピンク、黒に近い茶色のそぼろができた。これ、お弁当にしてもよさそうだ。初めて自分の力で料理を作ることができた。ただ慣れていないせいか、終わる頃には六時を過ぎていた。


サラダを別の白いお皿に盛り付けて、完成だ。


「できた」

「ありがとう。作っている陸の姿、かっこよかった」


なんだか照れる。でも、母さんも心なしか嬉しそうだ。


しかし食事のことを考えると一日が早い。主婦って多分、いつも四六時中、朝昼晩なににしようかと献立を考えているのだ。これはこれで、結構大変なことだ。


キャベツの千切りはなかなか上手くいかないけれど、三色そぼろは彩りも華やかで食べやすい。いくらがあればもっと美味しそうな気がしたが、流石に高くて買えない。


「はぁ、やっぱりお肉はいいわね」


母さんは息をついた。


「肉、食べたかった?」

「そりゃあね。魚ばかりじゃ、力が出ないもの」


蓮と同じことを言っている。


「明日はバイトでしょ? 帰りは何時頃になるの」

「六時頃」

「じゃあ、明日は私が作るわ」

「え、大丈夫?」

「大丈夫ってなにが」

「料理苦手じゃん」


言うと母さんは少しむっとした顔をする。


「あら、苦手じゃないわよ。指先切るだけで」

「また、何針も縫うなんてことしないでよ」

「気をつけるわよ。でもね、本当に料理、苦手じゃないのよ。不器用なだけで」

「うん・・・・・・」


母さんは身を乗り出した。


「うんってなによ。そこは否定するところじゃない?」

「だって本当に下手じゃん」

「悪かったわね。でも、陸が頑張っている姿を見ていたら、私も頑張ってみたくなっちゃった」


母さんは笑って胸元で両拳を作る。


「じゃあ、久しぶりに作って貰おうかな」


母さんのまともな手料理は、どのくらいぶりに食べるだろう。


楽しみと不安が入り交じる。

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