第18話
これ、全部数えるの? 慌ててレジを打たずに独学で覚えた暗算をしていく。
電卓を悠長に使っている暇もないしレジを打った後でまた最後尾に並ばれると厄介だ。
四百三十八円ほどと余った金額を言う。背後の人からの圧がすごい。
「じゃあそのくらいの値段のもの、何か持ってくるよ」
言ってその場を離れてしまった。カゴ、どうすればいいんだ。頭を回転させる。スーパーのレジの人をふと思い出した。買い忘れたお客がいるときに、後ろに回していた。同じように近くのおけそうな台に置き、次のお客の相手をする。
「レジ袋下さい」
「小が三円、大が五円になります」
「中はないの」
「申し訳ございません。小か大になります」
「この分量なら大小どちらが入る?」
もう算数の世界だ。カゴの中には大のフードパックが五つに中が六つ。小だと多分入りきらない。
「大だと思います」
「じゃ、それで」
会計に五円をプラスし詰める。レジ、結構キツいぞ。でもこれからが本番なんだよな。
ちらりと見ると、結衣さんはスムーズにレジを進めている。流石に慣れている人は違う。見習わなくちゃ。目が合うと、結衣さんはにこりと笑った。なんか、大人の余裕を見せられている感じだ。俺も余裕を持ってできるようにしないと。
クレジットカードだ。機械に通して暗証番号を押して貰い、レシート、領収書、ポイントカードを渡す。するとお客はレシートと領収書をそのまま置いていった。
はっと気づく。このレジ台には、不要レシート入れがない。だからって、そのまま置いていくなよ・・・・・・。そんな悪態を心の中でつき、色々な人がいるなぁと思いながらレジをこなす。
あとの人は現金払いだったので楽だ。現金、最強。
先ほどの商品券の人が並び直して、サラダのパックをひとつ持ってきた。
「これで大丈夫かな」
「はい」
大量に入ったカゴにサラダのパックを追加し、会計を言い渡して商品券をもらう。えっと、商品券はどこを押せばいいのだ。金券、どうすればいい?
店長を呼ぼうと思ったが、さっきから全然出てこない。
どうしよう。思わず結衣さんに叫んだ。
「結衣さんすみません、金券の時はどうすればいいのですか」
「金券って書いてあるボタン押せばいいのよ」
みつけた。すかさず押す。男性は大量の品をマイバッグに入れて持ち帰る。
「ありがとうございました」
「らっしゃいらっしゃいらっしゃい」
いきなり店長と、吉村さん、三木さんの声がけが大きくなる。
「タイムセール、タイムセールが始まります。この機会に是非お立ち寄り下さい」
店長がどんどん品物を窪んだショーケースに並べていく。
来た! タイムセール! ここから先は地獄の戦場だ。
先ほど動かずじっと見ていた人たちが動き出した。
ああ、タイムセールを狙っていたのか!
「丼ものお弁当寝引き! 今から二十パーセント引き! 今並んでいるお客様も対象です!」
マジ? 聞いてない。どうすればいいんだ。いや、落ち着け。
早速丼とお弁当と他のものを買っているお客様がやって来た。
丼とお弁当は合わせて四つ。四つを全て二十パーセント引き。
レジを打とうとする手が止まる。あれ。どうすればいいんだ。あわ。あわわ。
なんだか目が回ってきた。すかさず相模店長が飛んできて、やり方を教えてくれる。
「ここ、パーセントってとこ押して20と手打ちで押して」
「はい」
言われたとおりにすると割り引かれた値段が出てきた。ひとつひとつ全部スキャンし手打ちする。
「あの灰色の服を着たお客さんから、普通にスキャンして。もう、割引額が出るから」
「はい」
会計を言い渡し、こなしていく。お客さんのカゴの中の量も多くなっていく。
フードパック中は、四つで四百九十八円。これは手打ち。それから丼が二十パーセント引き。お釣り諸々を渡す。フードパック大四つ、中が一つ。小も一つ。あれ、これは。
大以外は単品で打てばいいのか。こういう買い方をする人もいるのだ。
灰色の服の人がやって来た。あとは普通にレジを通せる。と思っていたのに間違えた。
体が勝手に割引のところを押して会計を出してしまった。
まずい、どうしよう。すごい人だし。
ああ、泣きそう。
「申し訳ございません。レジ打ち間違えました」
「はぁ?」
お客は今にも激高しそうだ。うぅ。胸が痛い。心が痛い。
「本当に申し訳ございません」
俺は店長の名を叫んだ。すると店長が駆け寄ってくる。
「どうしましょう。レジ打ち間違えて二十パー引きのとこ、押してしまいました」
「ああ。直すから」
お客はとても不機嫌そうだ。
店長は冷静にレジの押し間違いを取り消している。そうして正しい数字を出した。
「お客様、まことに申し訳ございませんでした。お会計、七百十六円になります」
「早くしろよ! ずっと待っていたんだから!」
もうひたすら謝るしかない。脳内はパニック状態だ。
相模店長は肩を叩いた。
「落ち着いて。冷静にね」
「はい」
時給が高いのもなんとなく頷けるような忙しさだ。
店長や結衣さんに助けて貰いながら、蛍の光がなり始め、店が閉まるまでなんとか耐えた。客がいなくなると店長と前田さんが、レジの点検を始めた。
売り上げを数え、レシートを照会している。
終わってどっと疲れが出る。
タイムカードを押したら戻ってくるように言われたのでそのとおりにする。
「お疲れー」
結衣さんが俺のところへ来た。
「お疲れ様です」
「初めてだったけどどうだった」
「なんか途中からパニックになっちゃって。助けて頂いてありがとうございました」
「私も初めての時はパニックになった。三か月もしたら慣れるよ」
みんな多分、同じ道を歩んでいるのだ。そう思うと少し気が楽になった。
「野本君、野本君」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます