第14話
放課後になると、みんなが集まってくる。
応募しようとしているバイト先に電話をかけるから、みんな気にしてくれているのだ。
ガラケーを取り出すと、勇気を出して電話をかける。コール音が五回ほど鳴った後、男性が出た。
「お待たせ致しました、ゼックです」
一瞬頭が真っ白になる。ええっと、なにを言えばいいんだ? 散々考えていたのにいざとなると出てこない。みんなに見られているという緊張感もある。
「もしもし?」
「あの、求人誌を見て電話をしました野本と申します」
なんの求人誌を見たかと問われたので、表紙を見て答える。年齢と、学年も聞かれた。
電話に出たのは店長らしく、相模と名乗った。
「十五歳か。えっと、高校生でしょ?」
「はい、高校一年生です」
「随分若いね。まあいいや。面接、都合のいい日は」
今日はダメだ。まだ写真を撮っていないし、母さんからの同意を貰っていない。
「はい、明日、学校終わったら行けます」
「じゃあ明日の・・・・・・学校終わるの何時?」
「三時過ぎには終わるので、四時半にはうかがえます」
「じゃあ、その時間に履歴書を持って来て。親の同意書も一応」
「はい」
なんだか相模さんの口ぶりと電話の向こうは忙しそうだ。そのような気配がする。
電話を切ると緊張の糸が切れて体から力が抜ける。
「とりあえず面接にこぎつけたな」
田中君がピースサインを作った。
「受かるといいね」
福井さんが言う。俺は笑顔で頷いた。不安はたくさんあるけれど、これって一応バイトでも社会に出るということになるんだ。しっかりしないと。
「じゃあ、俺は写真撮らなきゃいけないから帰るよ。スーパーにも寄りたいし」
「その前に」
蓮が教壇に立つ。
「月曜はカレーを作る。部活じゃないけど一年四組料理部で参加したい人は」
すると、また十二人ほど手が上がった。もちろん俺も手を挙げる。手を挙げた人の中には、ムニエルを作った生徒とまた違う子がいる。
「じゃあ用意するものはジャガイモとにんじん、タマネギ、肉、カレー粉。肉もカレー粉もなんでもいい」
「師匠、一人一人持って来たら、量が多くなりませんか」
青木君が叫んだ。
「それもそうだな・・・・・・」
蓮は少し考えた風に天井を見上げた。
「じゃあ、これからチーム分けして、持ってくるものを決めるのはどうよ?」
「それでいいっす」
「じゃあ四人ずつに分かれて・・・・・・くじをひこう。みんな名前を書いた紙を折って持って来て」
言われてみんなは鞄の中からメモ帳やノートを取り出す。蓮は俺を見た。時間をとらせてすまない。そのような顔をしている。俺は笑顔で首を振った。母さんは思い出を作りなさいと言った。こういうひとときも、楽しいものとして記憶に残る。
名前を書いた紙を持っていくと、蓮が適当に紙をシャッフルし、組分をした。
俺はまたまた話したことのない狭山さん、菊池さん、小寺君と一緒になった。話したことはないといってもバイトを探すときに、俺を見守ってくれた子たちだ
「野本君、宜しく」
小寺君が言った。
「こちらこそよろしく」
狭山さんがにんじんとカレー粉、菊池さん小寺君が二人とも肉、俺が玉ねぎとじゃがいもを持ってくることになった。三人は俺に配慮して、安く買えるものを指示してくれたのだ。母さんから一万貰っているのに、なんだか申し訳ない。
お礼を何度も言うと、みんないいよと手を振る。なんだか情けなくなる。バイトを頑張って早いところ資金を調達して、精神的に余裕を持ちたい。
ひととおり話が終わると、一斉にバイバイ、とかまた明日ね、と声が聞こえた。
自宅最寄り駅前で制服のまま無人の証明写真機で写真を取る。一万円貰った中からお金を出した。写真には冴えない顔の男子が映っている。まあ、これが俺だ。
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