第12話
翌朝、いつもより二十分ほど早く起きた。
不思議と料理をするのが楽しくて、眠くない。
冷蔵庫に入っていた傷みかけのピーマンを切り、タマネギをスライスし、サラミを薄く猫の手で切る。
食パンにケチャップを塗り、タマネギを敷き、ピーマンサラミを乗せ、更にミックスチーズを盛ってグリルで焼く。家で作れるピザトーストだという。これなら簡単だし、少しばかりの栄養もとれる。五分もすると、チーズの焦げる香りがしてきた。
グリルから取り出す。焦げ目のついたとろけたチーズ。本当にピサのようだ。
「あら、いい匂い」
母さんが既にバッチリ化粧をして、スーツを着こなしリビングにやって来た。
「もうできたよ。今日はこれだけだけど」
「食パンがあるなら、お昼サンドイッチにしちゃいましょう。陸もいるわよね」
「あ。俺はいい」
「どうして?」
「クラスで仲良くなった子が、弁当を作ってくれるんだ」
「まぁ。それじゃあ材料費渡さないとだめじゃない」
そこまで考えていなかった。材料費を渡して、俺も手伝わないと。
母さんはバターとジャムを塗っただけのサンドイッチをふたつ作り、ラップで包む。
「会社に食堂ないの」
「ないのよ。あると助かるんだけど。でもお金かかるしねえ」
言って席に着くと、ピザトーストを食べ始める。チーズが伸びに伸びて幸福そうな顔をしている。
「なにこれ。カリカリッとして、チーズはとろとろ。もう一つ食べたいくらい」
「友達に教えて貰ったレシピだよ。ふたつ作ればよかった?」
「いいわ。ひとつで我慢しないと」
気になって、俺は訊ねてみた。
「俺たちっていつも白米弁当じゃん? 母さんはなにも言われない?」
「陰でひそひそ言っているのはいるわよ。でも気にしてないわ。ただ」
俺の目を見つめた。
「陸には、悪いことをしたかもしれない。迷惑かけちゃって。本当にごめんなさい」
いじられ――いじめられていたことは、見透かされていたみたいだ。
だけど親に謝れるのはなんとも居心地が悪い。
「いいよ、もう過ぎたことだし」
「うん。楽しめるときは楽しむのよ。今の陸は大丈夫そうね」
「うん、今のところは」
それじゃあ、もう行くわ、と言って出て行く。再び一人になった家でふと思う。本当に父さん、どこでなにをしているのだろう。
携帯も繋がったためしがないし。どこかで会ったら文句のひとつや恨み言もたくさん言いたいけれど。
ただ失踪する前の父さんの様子も少し気がかりではあった。もう限界ですと言わんばかりの、死にそうな顔をしていたのだ。
なにがあったのかは知らないけれど、父さんも、もしかしたらブラック企業に勤めていたのかもしれない。
いつ帰ってくるかもわからない。まさか、どこかで死んでいないよな。
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