第11話

後片付けを終え蓮と広瀬先生に挨拶をして実家の最寄り駅に着くと、スーパーに寄る。


まだ小遣いが残っているから鮭を一匹買って鞄に入れ家へと帰る。レジ袋が有料になったから、マイバッグも常備しておかなくては。


午後五時過ぎ。 


この季節のおかげでまだ明るい。玄関を開けると、退院した母さんがわざわざ迎え出てくれた。顔色は病院で見たときよりも大分よくなっているけれど、それでもまだ悪い。


「何時頃家に帰ってきたの」


靴を脱いでリビングへ行くと買ってきた鮭を冷蔵庫にしまった。


「三時頃かな」


母さんは椅子に腰掛け、頬杖をついた。


「もう少し病院で休んでいればよかったのに」

「大丈夫よ。あんたが帰ってくるまで寝ていたし。大分疲れはとれたから」


もう、明日は仕事に行くのだろう。


「母さんあのさ、俺がこれから料理作るよ」

「あら、陸って料理作れた?」

「今、学校の友達に料理を教えて貰っているんだ。その子、料理人になるのが夢なんだって。今日も教わってきたところ。週二回くらい教えてくれるから。これから頑張って作るよ。今日も母さんに覚えてきたのを作るから」


「ありがとう。今日の献立まだなにも考えていないの。お言葉に甘えようかな。そういえば、鍋の中にあったスープ、美味しかったわ。あれも陸が作ったの」

「え、あれ食べたの? 大丈夫だった」


昨日作ったままほほったらかしにしていた。


「別に腐っていなかったわよ。うんと温めたらすごく美味しくておかわりしたくらい」


捨てておけばよかった。でも食べられたのなら、捨てるのももったいないか。


「じゃあ、早速料理、俺が作るね。朝も作るよ。下手かもだけど」

「ちょっと待ちなさい」


母さんは台所に立とうとした俺を引き止める。


「朝晩作ってくれるのよね。それで、学校でも料理を教わるんでしょ。いいお友達ができたわねえ」


言いながら、バッグを手にする。


「うん、なんかクラスの子、みんな優しいんだ」

「陸が楽しければそれでいいわ。思い出たくさん作りなさいね。はい、これ」

一万を差し出した。

「これは」

「材料費よ。小遣い三千円を材料費に使えなんて言えないし。陸も食べ盛りだものね。これで一ヶ月、食費を任せられる? お小遣い足りなくなったらそこから使ってもいいし。食費が足りなくなったら言ってくれていいし」


正直かなり助かる。


「お弁当はまだ作れないけど、朝晩は作ってみるよ」

「よろしくね」


俺は小遣いとは別の財布を用意すると、そこに一万円札を入れた。


ご飯を炊き、今日教わった鮭のムニエルを作る。野菜は今日余ったキャベツをビニールに入れて持って帰ってきたので、それを使い、あとは大根と人参をスライスして切る。


味噌汁も作ってみた。味噌汁は母が作っていたのをよく見ていたので手順は覚えているけれど、具はまた、もやしとわかめになった。味噌汁は味噌の加減が難しく、味付けは濃くなってしまった。


「じゃあ、母さんは食べていて。俺はもう一度スーパーに行って、明日の朝の材料を買ってくるよ」

「陸は食べないの」

「学校で食べてきたから。それでもお腹が空くだろうから菓子パン買ってくるけど」


家にあった適当な袋を持った。


「行っていらっしゃい。ありがとうね」


母さんは笑顔で手を振る。


お金が入った安心感からか、スーパーへ行くという行為も、なんだか少しワクワクし

ている。どんな食材があるのだろう。


卵は特売をしていない。ふと、蓮から貰った手作りレシピを思い出した。


食パンと菓子パン、サラミ、タマネギ、五百グラムの袋入りミックスチーズをカゴに入れる。食パンは三十パーセント引きのものをカゴに入れる。


タマネギは一個二十八円という安さだった。朝ご飯は決まった。それで明日の夜はなにを作ろう。


しばらく考えてみてもレパートリーの少なさから献立が思いつかない。明日蓮に相談してみよう。これから毎日作るのならば、レパートリーを増やすのは大切だ。


とりあえずカゴに入れたものを買って、家に帰る。母さんは既に皿の中のものを平らげていた。とびきりの笑顔だ。


やっぱり食って大事なのだ。人を笑顔にさせる。

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