第9話


HRが終わり放課後になるとみんな騒ぎ出した。


「よっしゃあああ! ムニエル食いに行こうぜ!」


川島君が叫んだ。


「まだ作ってもねえだろ」


突っ込んだのは少しひょうきんに思える青木君。その場で笑いの渦が起きた。半数以上は部活があるからと教室を出て行ってしまった。残った十三人はみんなで他愛のない話をしながら調理室へ向かう。蓮は鍵をとりに職員室まで行っていた。


「野本君は、野菜サラダはなににするの」


潮崎さんが訊ねてきた。


「えっと、キャベツ・・・・・・」

「キャベツ?」

「キャベツだけ」


俺は肩をすくめた。


「ええっ、それだけ?」

「うん。料理したことないからキャベツも上手く切れないだろうし」

「そっかぁ、なら私の持って来たトマト少しあげる」

「いいの?」


潮崎さんはにっこりと笑う。


「うん。一個じゃ食べきれないし」

「うわあ、ありがとう」


蓮が戻ってきて、調理室の鍵を開けた。みんなぞろぞろと調理室に入る。


調理台が六台ある。


「グループ分けはどうする?」


言ったのは福井さんだ。


「適当に三人ずつに分かれて」


蓮が指示を出すと、みんな素直に動く。自然と三人のグループに分かれた。


俺は出入り口付近の調理台で潮崎さんと、河西君と一緒になった。


「料理が全然作れない人―」


蓮が前に立ち、言う。すると俺を含めて八人ほどが手を挙げた。


「手を挙げた人たち、みんな前に来て」


蓮の周りに人が集まった。


「最初に、基本的な野菜の切り方を教えるから」


蓮の調理台の前には、トマトとにんじんがいくつかある。


それを使って、左手の使い方といちょう切りや乱切り、角切り、くし切りなどを実演している。手さばきは流石、慣れたものだ。


「おおお、すっげえ」


田中君が声をあげた。


「いや。これ基本だから、覚えてね」


俺はなるべく覚えて頭で再現できるようにした。


「それから手際よく料理をするには、まずご飯炊くー」

「ご飯炊くー」


みんな口を揃えて蓮の真似をする。


「次に野菜を洗って切って、水切りをする」

「水切りをするー」


「そのあとメインの調理開始!」

「ウッス」


口々にそうした返事をして、みんなはまたもとの調理台に戻る。広瀬先生が顔を出した。蓮となにか話し合っており、一度笑顔になると調理室の隅に座った。監督役ということだろう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る