第8話


四月の太陽は、柔らかく眩しい。


クラスのみんなは誰も俺のことをからかったりしない。それどころか部活じゃないけどクラスで料理部を設立してしまった。少しだけ楽しくもある。


登校すると、蓮がまた教壇の前に立っていた。


「鮭とか色々もってきた奴、調理室の冷蔵庫に入れてこーい。許可は貰ったぞ」


何人かの生徒が調理室へ行く。俺も慌てて調理室へ行き、フリーザーパックに名前を書いて冷蔵庫に入れる。バターとキャベツ、小麦粉も冷蔵庫に一緒に入れた。


授業中はみんなそわそわしていた。落ち着いている子たちは多分、部活や塾などで一年四組調理部に参加しないのだろう。


蓮は今日も、調理室でお弁当を作ってきてくれた。


調理室で焼いたというアスパラの豚肉巻きが柔らかく、塩もきいていて悶絶する。


「蓮ってさ、なんでこんなに料理が上手いの」

「大したことはないよ。将来の夢は料理人だし」

「料理人? すごいね」

「個人で店を出すのが夢。昔から味覚だけはいいって褒められていてさ。卒業したら調理師学校に行くつもり」

「もう卒業後のこと考えているんだ。マジ尊敬するわ」


俺は実を言うとなにも考えていない。漠然と働くのだろうなぁ、とは思っているけどまだどのような会社で働きたいかを全く決めていない。一年の間は楽しんでおきたいという思いもある。


「あ、昨日教えて貰ったスープ、美味しく作れたよ。ありがとう」

「体も温まるだろう。夜はまだ冷えるしな」

「うん。もやしとわかめだけであんな風に作れるなんて知らなかった」

「素材をそのまま食うのもいいけど、それだけだと旨くならないからな」



ふと、白米ともやし弁当の日々を思い出した。もやしは茹でただけで味付けをしていなかったけれど、感覚が麻痺してそれが俺にとっては普通なのだと思っていた。


味って大事だ。


蓮にはたった数日で随分助けられている。できたての味のついた色彩豊かな弁当が食えるのは本当に感謝してもしきれない。


なにか返したいと思うけれど、今のところはなにも思いつかず、だ。いつか恩返しができる日が来たらしっかり返そう。


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