第5話


父さんにショートメールを送ってみる。だが、メールは悲しくも戻ってきた。


そして母さんの会社に関して俺ができることはなにもない。困るのは家の食事情だ。


費用をもう少し食べることに回さないと、また母さんは倒れてしまう。でも他になにを節約したらいいのだろう。


とりあえず三千円は貰っているから本を買うことを控えて、フリマアプリで売れそうなものは全部売る? スマホは持っていないけれどノートパソコンなら母さんと共用で使っているものがあるから、パソコンから出品すればいいだろう。



家の中で売れそうなものを見てみた。だがどれも必要最低限のものしかなく、売れそうなものなどひとつもない。参考書は書き込みがびっしりあって使い古してボロボロだ。売るには汚れすぎている。


それに、調べてみれば販売手数料に、送料はこちら持ち。梱包資材代もかかる。マイナスだ。



諦め、一人になった家で白米を炊き、魚を両面焼きのグリルで焼いて食べて風呂に入る。



なかなかに寂しいものだ。このままの調子で母さんが死んだら・・・・・・。


考えると恐ろしい。


とにかく栄養状態を改善しないと。


風呂から出て寝間着に着替えると、ブブッーという音が鞄から聞こえてくる。


ガラケーが鳴っているのだ。今のはメールの振動だ。バスタオルで頭を拭き、革鞄から携帯をとりだしてみてみる。



五件のメールが入っていた。今日アドレスを交換した子たちの何人かが心配してメールを送ってきてくれたようだ。


『大丈夫?』


そのようなメールが連なっている。ここは肝心。友達作りにおいてとても大切だ。


一人一人に『心配してくれてありがとう』と丁寧にメールを返す。


最後は蓮からメールが入っていた。


『大丈夫か。明日は学校来られそうか?』


お弁当のこともあるのだろう。学校へ行けなかったら材料が無駄になる。


『大丈夫。学校へは行けるよ』


しばらくするとメールが返ってきた。


『明日もうまいもん作ってやっからな』


「ありがとう」


思わず言葉に出していた。そしてふと思う。


母さんが頑張って働いているのだから、食は俺が支えなきゃいけないんじゃないのか。


もう高校生なのだし。俺、今までなにをしてきたのだろう。


母さんがご飯を作るのが当たり前だと心のどこかで思っていた。でもそれじゃいけない。とはいえ俺はなにも作れない。料理本を探さないと。どこかにあったはずだ。



バスタオルを洗濯機に放り込んで探し回り母さんの部屋に侵入すると、小さな本棚から料理本を見つけた。


『大好きなごはん』


表紙にはそう書かれていた。パラパラとめくってみるとおいしそうな料理が写真付きで紹介されている。だが、豆板醤。固形スープの素。顆粒タイプのだし。これなに? 調味料がよくわからない。豆板醤が読めない。マメイタショウ? トウバンショウ?


本を棚に戻して電気を消すと、そのままリビングへ行って三段ある冷蔵庫の中を見た。


食パンにバター、ジャム、わかめにもやし、きゅうり、ピーマン、にんじん、大根。味噌。そのくらいしか冷蔵庫には入っていない。



勉強ができる頭の良さと、生活を回していける賢さは異なるのだと思う。いくら勉強ができるからといって家庭のことひとつ満足にできないのはバカだ。



で。で? これで俺に、一体なにが作れる?


父さんからメールは来ない。


一体どこでなにをしているんだよ。



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