第8話 リトラ村防衛戦〜開戦〜

狼煙のろしじゃと?」


「はい。リトラ村入り口の門より敵襲の狼煙が上がってるのです。間違いでない限りは恐らく‥‥」


 皆が解散しようとしていたその時。1人の中年兵士が我が家に駆け込んできた。目的は勿論もちろんガンツへの報告である。


「こんな早朝に敵襲?ゴブゴブリンの群れとかじゃないのか?」


「恐らく、じゃがな」


 ガンツは深いため息を吐きながら自身の長い髭を撫でる。そこから感じ取れたのはかすかな緊張と殺気。長く戦場に立ってきた男の覚悟が素人しろうとの俺でもひしひしと伝わってきた。


「おい、村にいる兵はどれくらいおる」


「門にて配備しているのが20名で、この村に休息を取っているのが13名なので今すぐ出動できるのは17名です」


 少ないと思われるが実際この村の人口と比較すれば兵士の割合は高い方。17名でも10単位のゴブゴブリン程度簡単に掃討そうとうできる。


「ならん!悪いが休息を取っている奴らも叩き起こして来い」


「はっ!かしこまりました!」


 こちらに一瞥いちべつすると若い男の兵士は兵を召集すべく家を出た。


「さてならわしも行こうとするかのう。悪いがアン今日の朝飯は—————」


「待ってくれじいちゃん!!」


「ん?」


 ガンツの前に飛び出したのは木刀を腰に吊り下げ、学校にて配布された鎧を装備したベレトだった。


「何の真似だベレト」


「俺も行かしてくれ!!」


 否、ベレトだけではない。シルヴァンもハルカも相応の覚悟を決めてガンツの前に立っている。


「行く気か?貴様ら」


「村の存亡の危機に駆けつけねぇで何が兵士志望だ!!俺は行くぞ!じいちゃん!」


 と、ベレトが意気込む。


「ま、そろそろ実践経験積んどきたいと思ったしな。それにベレトも行くんならガンツさん俺も行くぜ」


 と、シルヴァンが便乗びんじょうし。


「以下同文」


 と、ハルカもやる気を見せる。


 そんな若人の成長にガンツは胸打たれ、三人の同行を許可した。アンはベレトを殴り参戦を止めたがガンツの後押しもあり無事戦場へ赴くことが決まった。



 そして舞台は戦場へ‥‥



「なるほどこれは、死線じゃな」

 

 熟練兵士30名に訓令兵3名の計33名のリトラ村兵力に対し、ゴブゴブリン100体。もはや戦力差は明らかである。そして決め手は——————


「ただのゴブゴブリン百体なら儂1人でもどーとでもなる。だがこれは‥‥中々どうして手が焼かれるわい」


 鉄剣に槍、盾や鎧を装備したゴブゴブリンが百体。言わば完全武装の兵隊が目の前に迫っていた。


「なんでアイツら兵装してんだ!?魔物だろうが!!」


「てかあれ‥‥陣形組んでねぇか!?」


 若い男兵士2人が声を上げると他の兵士の面々も見て気付くなり動揺を見せる中、あごで熟考していたガンツの頭に一つの推測がぎる。


「盾装備を前衛にし、中衛の槍と後衛の弓で迎撃とな‥‥あの陣形はもしやファランクスか!!」


 密集防御陣形ファランクス。前衛を頑丈な盾や鎧を纏った重装歩兵で固め、敵兵をリーチの長い槍で攻撃する。十数程度の兵士が行っても威力は低いが、完全装備した百のゴブゴブリンであれば火力の底が知れない。まさしく完全無欠の戦略と言える一手だ。


「なぁベレト?俺ら学校で魔物が陣形を組むなんて習ったかよ?それどころか完全武装なんて反則じゃんか!!」


 いつもお得意のマイペースを決め込むシルヴァンもこのあり得ない状況を前にして動揺を隠さないでいる。それもそうだ。完全武装の魔物が陣形を組んで攻め込んでくる状況など、どの諸国の戦歴を見ても例がない。だが、先頭に立つ大将ガンツは一度驚きはしたもののそれ以上の乱れは見せなかった。


「授業で習うことが戦の全てではないぞシルヴァン。だが今回のはちとイレギュラーが過ぎる。皆の者こちらもしかと陣形を組んで迎撃しようぞ」


 ゴブゴブリンの兵隊が前衛に衝突するまでおよそ80メートル。すぐそこまで迫ってきた奴らに対して先制を仕掛けたのは俺たちだった。後衛に配備されたアン率いる遠距離攻撃を得意とした魔法部隊であった。魔法を使えるリトラ村の住民は低級であるが火炎の玉や雷の槍、水の弾丸を用いて前のゴブゴブリンたちを翻弄していた。


 中でも際立つのは。


「やっぱすげぇなベレトの母ちゃん。上級魔法師なんてそもそも少ねぇのによ。どーしてあの魔力がお前に遺伝しなかったんだろーな?」

 

「うっせぇーな。俺はあれだ。剣術の才に恵まれてるから魔法はいいんだ!」


「ふーん。遠距離もできる魔法剣士の方が私はカッコいいと思うけど?」


「えぇ?」


 すると厳しいコメントが横から奇襲を仕掛けてきた。出所はハルカだった。


「おい若造どもお喋りはそこまでにしておけ。来るぞ」


 見れば後衛の魔法攻撃を避け、あるいは被弾を免れたゴブゴブリンが寸前まで攻めてきていた。


「1人頭五体じゃ!せいぜい気張るがよい!!」


 背中に背負われた槍を引き抜くと同時に近づく盾ゴブゴブリンを薙ぎ払った。


「俺たちも行くぞシルヴァン!!ハルカ!!」


「おう!!(えぇ!!)」


 

 

 


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