第3話 再会と出会い

「ハァ〜」


 時刻は午後17時45分。雲一つなかった晴天せいてんの青い空が、少しずつ夕日によって黄昏たそがれ色に染色される。そんなはかない景色を俺は家の窓辺から眺めながら帰り途中での出来事を思い出していた。


「ハルカ、お前に聞いてほしいことがあるんだ」


「え」


 学校の放課後、そして帰り道に男女2人。告白するにはこれ以上ないベストなタイミングで、ベストなロケーション。田舎道だが俺たちにとっては昔から遊んだ思い出の場所であって逆にアリだ。


 そんな一世一代の告白をしようとしたその時。恋の女神は俺を鼻で笑いやがった。たまたまそこに居合わせた旅人がこの甘酸っぱい雰囲気をぶち壊すが如く、最寄もよりの村までの行き方を尋ねてきたのだから。


 優しいハルカのことだ。困っている人を見過ごせるわけにもいかず、俺達はその旅人を連れて村へと向かったのだった‥‥


 そして時は今に戻る。俺は自室のベットに突っ伏して悶々もんもんとした時間を過ごしていた。


「ほんとこの世の中でカップル成立させた奴らって勇者かなんかだろ?どうやったら女子に告白できんだよ!何したらその鬼メンタル手に入るんだよ!」


 女を抱いたことは愚か、母親を除いて異性と手を繋いだこともないベレトがそんなことを考えるだけ思考と時間の無駄であった。


 そして困ったことにコイツは。


「あーもうなんか溜まってきたな。シコるか」


 性欲だけは人一倍、百倍あり、日々尽きぬ欲情に悩まされていた。もちろん彼女がいないコイツにセックスのような解消方法もない。ならばと買い揃えたエロゲームは千種以上、AV系動画は五十本、オカズ写真は数えられないほどの膨大なお供を揃えていたのだ。


「うーん‥‥なんかどれも違う気がすんなぁ。これはもう萎えたし、こっちも飽きたし‥‥悩むな」


 童貞の性欲解消手段はリア充共と比べて多種多様。最悪オカズとなるモノがそこになくともコイツらには。


「仕方ない。いいか、オカズは」


 脳内オカズ生成。所謂いわゆるイマジナリーオナニーという最近ムラムラした出来事を思い出し、オカズにするという手段を持ち合わせているのだ。ただの童貞ではこれを会得するのに相当の—————


「ベレトー?いるー?」


「え?」


「あ」


 男子諸君。神聖な儀式を行う際は必ず周りをよく見渡してから行おう。「母、息子のお年頃を理解」という最悪なバッドエンドを回避したいのであれば、な。


「な、ななななになに!?お母さん!!急にドア開けないでよ!!もう!!冗談じゃねぇよ!!」


「はぁ?何母親に自分の情けないチンポの自家発電見られて興奮してんのよ。あのね、あんたのパンツ洗ってる母親が息子のオナニーに気づいていないとでも思ってるの?あんなくっさい白液染み込ませて、洗う身にもなりなさいよ」


 ‥‥う、嘘だよな?そんなこと。え?


「馬鹿言ってないでさっさと下に降りてきなさい。あんたに客人よ、客人。パンツは履き替えてきなさいね」


 そう言って母は放心状態の俺の顔面に青いブリーフパンツを投げつけると、自室の部屋のドアを開けたまま一階へと降りていった。


 ほんと、たくましい母ちゃんだってばよ。まぁ息子の発電を見られたのはこれが初めてというわけではない。一度鍵を閉めずにトイレの中でしていたら速攻でドアを開けられ即バレした話もある。とはいえパンツのシミから推理されていたのは思わなかったためちょっとしたホラーを覚えた今日この頃だった。


 それにしても俺に客人?誰だろう?シルヴァンやハルカあたりなら無許可で俺の部屋に踏み込んでくるのだが、そうじゃないあたり俺の知らない人はもしくは近所のお姉さんだろうか?


 え?なんで近所のお姉さんかって?そりゃもちろんズリネタにしてるからだ。俺の卑猥ひわいな視線がどれほどのものだっだか知らないが男子が女子の胸を見てることは大抵9割方バレているらしい。それっきり俺は女子の胸を見るのをやめた。代わりにケツだ。ケツを見ている。


 と、くだらないことをベレトが考えながら客人がいる1階のリビングへ向かうとそこには今まで見たことのない華麗なお嬢さんが木の椅子に腰掛けていた。


 誰だこの人。村にいたか?こんな美人。


 先ほどまで盛っていた俺であったが何故か急激にその気が失せた。タイプじゃないという理由ではない。むしろ見たことなくらいの美女だし、着ている服やアクセサリーだってこの村じゃ到底揃えられない一級品ばかりだ。ただ単純にこの女性を目にした瞬間、俺の背筋が固まった。


「あの、どなた様でしょうか?」


 軽く会釈えしゃくしながらその女性を一瞥いちべつするベレトだったが、彼女の後ろには2名仰々しい鎧を身にまとった騎士が控えているのを見てさらに緊張が走った。


「‥‥‥‥初めましてベレトさん。私はリーリエ・フォン・アドラー。この国、アドラー帝国の王女です」


 長い沈黙と静寂の後、リーリエはベレトに向けて微笑ほほえんだ。


 

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