〜和真くんの初エスコート〜

 待ちに待った火曜日がやってきた。俺たちは厨房で料理を作りながら2人が来るのを待っていた。

「和真くん、どんな子を連れてくるのかな」

「きっといい子だと思いますよ。彼に似て」

 早く会いたいなと思いながら、仕事をしていると、ドアベルが鳴った。俺は笑顔で入ってきたお客さんに挨拶をした。

「いらっしゃいませ!!」

「一樹店長、こんにちは」

 和真くんが来てくれた。でも、彼女の姿が見えないな。

「あれ?和真くん1人?」

 すると、ドアが開いてもう1人入ってきた。

「こんにちは……」

 可愛らしい女子高生が入ってきた。性格もなんだか大人しそう。彼女は俺にお辞儀をした。

「初めまして、川崎くんと同じクラスの飯島なつみです。よろしくお願いいたします」

「初めまして。この店の店長の斉田一樹と申します。よろしくお願いいたします」

 俺もつられて頭を下げた。挨拶を済ませた後、2人は4人テーブルに座った。和真くんは彼女にオーダーの仕方を教えている光景が見えて、なんだか微笑ましくなった。

「すごい、結構簡単にできるんだね」

「でしょう?ちなみに、ドリンクのおかわりもスマホからするんだよ」

「へぇ〜、そうなんだ!!たくさん飲んじゃいそう」

 オーダーを済ませた後は、店内ツアーをしていた。緑豊かな店内のレイアウトを細かく教えてあげている。下手すると俺より詳しいかも。彼女の表情も笑顔だし、なんだかとても楽しそうだ。

「一樹さん、パンケーキ入りました」

 景虎が呼びに来たので、仕事をしに戻った。2人のいるテーブルで桃のパンケーキが2つ入った。サイコーに美味いもの作らなきゃな。パンケーキが入るたび、景虎が俺の手捌きを眺めている。景虎もそろそろ1人で作れそうだけどな。どうやらまだまだ不安らしい。


 しばらくしてパンケーキが完成したので、和真くんたちのテーブルに運んだ。

「桃のパンケーキお待たせ致しました」

 彼女は俺のパンケーキを見て「桃が宝石みたいにきれい」と喜んでいる。写真を撮った後、パンケーキを食べ始めた。俺は彼女の反応が気になり、遠目から見つめていた。

「めちゃくちゃ美味しいね!!川崎くんが通うのも分かるかも!!」

「でしょう。一樹店長の料理はパンケーキ以外も美味しいよ。全部食べてほしいくらい」

 そう言ってもらえて嬉しいな。2人の邪魔をしないように厨房へ戻って仕込みを続けた。



※※



「パンケーキ美味しいね、川崎くん」

「でしょう〜。一樹店長は天才なんだよ。お菓子も軽食系も全部美味しいんだ」

「そうなんだ。川崎くんがハマるのも、なんだか分かるかも」

 てかさ、今思ったんだけど……この状況ってまるでデートみたいじゃない?飯島さんはこの状況に気付いているのかな……。なんだか表情を見ていると気付いてなさそう。僕は紅茶を飲んで気分を落ち着かせた。

「しかし、こんなステキなカフェ、もっと早く行けば良かった〜。今度は食事しに来ようかな」

「一樹店長も景虎さんも喜ぶよ」

「このお店の人たち、みんな良い人ばかりだね。刺青怖いけど……」

 確かに2人とも刺青ガッツリ入っているけど、何でいれてるか訊いたことなかったかも。今度訊いてみよう。そのとき、景虎さんが紅茶を持ってやってきた。

「2人で新作フレーバーのハイビスカスティーの試飲をしてくれねえかって、一樹さんから」

「いいんですか?やった〜」

 彼女が香りをかいで、良い匂いだと言って、そのついでについでくれた。

「ありがとう」

 紅茶の香りも味も良くて、なにより彼女がついでくれたから、格別に美味しく感じる。

「この紅茶すごく美味しいね」

「う、うん」

 2人で堪能していると、一樹店長がやってきた。

「どう?新しい紅茶は?」

「はい、すごく美味しいです。夏にピッタリですね」

「その紅茶は鮮やかな赤い色が特徴のハーブティーで、クランベリーやザクロのような酸味のあるフルーティーな風味なんだ。アイスティーにすると、暑い日にぴったりなリフレッシュドリンクとしても人気なんだって。それから、ビタミンCが豊富で、美容や健康に良いと言われるみたいだよ」

「女性に喜ばれそうですね。私、この味好きです」

 飯島さんは一樹店長に笑顔を向けた。笑顔を向けられて彼も嬉しそうな表情を浮かべている。

「女性の意見もらえて良かったよ。じゃあ、期間限定で販売決定だな。2人ともありがとう」

「こんなサービスもらえるなんて、さすが川崎くん♪」

「いやいや。今日は飯島さんが一緒にいるからだよ」

 僕たちは2人で紅茶を飲みながら楽しい時間を過ごした。


「じゃあ、私バイトあるからそろそろ帰るね。今日は一緒に来てくれてありがと」

「こちらこそ楽しかったよ。駅まで送るね」

「ありがとう」

 僕たちはお会計を済ませて2人に見送られながら店を出た。



※※



 俺はテーブルを片付けた後、洗い場にいる景虎と話をした。

「今日をきっかけに進展あるといいですね」

「確かにそうだな。でも、彼女のあの様子だと、和真くんの気持ちにまだ気づいていないかもしれないな」

「なんだかいいですね。青春だな。2人を温かく見守りましょうね」

「うん、そうだね。俺は青春を全て料理に捧げちゃったから、恋愛してる和真くんが羨ましいよ」

「一樹さん23歳ですよね?まだまだこれからじゃないですか」

「俺はいいよ。料理が恋人だから。それより和真くんの恋最後まで応援しないとな」



続く。

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