〜N.iさんの正体〜
「お、おはよう飯島さん!!」
僕は一樹店長のアドバイスを受けて、積極的に挨拶をした。やっぱり本人を前にすると緊張して噛んでしまう。うう……情けない。
「おはよう川崎くん」
飯島さんは読んでいた本から顔を上げて僕を見た。僕は席に着いて今日こそは会話をすると心に決めた。入学してから2ヶ月経つが、恥ずかしくてなかなか面と向かって話したことがなかったんだ。どんな話題がいいかな……そうだ、パンケーキの話をしてみよう。甘いものの話なら僕も会話が続くかも。そう思ってスマホからパンケーキの画像を探し出した。
「あ、あのさ、飯島さんって甘いもの好き?」
「甘いもの?うん、好きだよ」
「これ見てほしいんだ。僕の行きつけの店のパンケーキなんだけど……」
写真を彼女に見せた。すると、「このパンケーキ知ってる!!可愛いよね」と笑顔で言った。飯島さん知ってたんだ。認知度上がってきたのかな。
「そこの店長さんもキッチンの人も優しくてさ。居心地も良くて毎週行ってるんだ」
「そうなんだ」
カフェの話になると、自然と
「私もそのカフェ気になってたんだよね〜」
今なら自然な流れで誘えるんじゃないか?僕は勇気を出して言った。
「あ、あの……」
「なつみ〜、ちょっといい?」
「はーい、今行く。じゃあね川崎くん」
友達に呼ばれて行ってしまった。また誘えるチャンスあるかな……そう思いながら、彼女をチラリと見る。飯島さんは友達と笑い合いながら、何やらスマホを見ているようだ。話題はエンスタグラム、通称「エンスタ」だ。そういえば、飯島さんってエンスタやってるのかな。
(試しに調べてみるか……)
「飯島なつみ」と打ち込み、ユーザー検索をかける。だが、結果はヒットなし。彼女はエンスタをやっていないのかもしれない。少し残念な気持ちを抱えつつ、僕は自分のページを開いた。いつも僕の投稿にコメントをくれるN.iさんのページがふと目に入る。彼女のアイコンは可愛らしいイラストで、どことなく飯島さんの雰囲気に似ているような気がする。何気なく彼女の投稿を見に行ってみた。
そこには、キレイな風景や美味しそうな食べ物の写真がずらりと並んでいる。自然光が降り注ぐカフェの一角、見事な桜の並木道、手の込んだデザートプレート――投稿のどれもがどこか繊細で、優しさを感じさせる。
(一体、どんな人なんだろう……)
言葉に出してしまいそうになり、慌てて飲み込んだ。N.iさんがどんな人なのか、ますます気になってしまう。
(会いたいな……)
思わず心の声がもれそうになった。
そうだ、まずは投稿をよく見て、彼女の行動範囲や趣味を探ってみよう。僕は画面を指でなぞりながら、投稿の一つひとつに目を通していった。
──あ、このカフェ、見覚えがある……。
投稿の中に、僕が最近通ったばかりのカフェの外観の写真があった。彼女も行ったのだろうか。ちなみに外観以外の写真はなかった。
(行こうとしてくれたのかな。確かにオシャレなカフェだから、敷居が高そうで辞めたのかな)
胸が高鳴る。それから投稿のキャプションを読むと、こんな言葉が綴られていた。
『和真さんの投稿にあったカフェに来てみました。とてもステキな外観でメニューも可愛い❤︎中に入ってみたいけど、1人だと緊張するので誰かと行きたいです。一緒に行ってくれる人募集中(笑)』
僕が一緒に行きたい……さりげなく立候補してみようかな。僕はダメもとでコメントを残した。
そして昼休みになると、僕はいつも学校の食堂でご飯を食べている。スマホを見ると、コメントが付いていた。N.iさんから返信だ。僕は急いでスマホを開いてメッセージを読んだ。
『一緒に行きたいです。カフェのこといろいろ教えてください』
『はい、任せてください。ちなみにいつ空いてますか?』
返信をすると、すぐに返事がきた。
『合わせます』
『じゃあ、来週の火曜日行きますか?』
『分かりました。楽しみにしていますね♪』
とうとうN.iさんと約束を取り付けてしまった。来週が待ち遠しいな。
放課後、エンスタの通知が流れてきた。画面を開くとN.iさんがアップしていた。写真を見ると、キレイな夕焼けの写真だ。どこから撮ったんだろう。僕はその写真に釘づけになっていた。どこから撮ったのかな。投稿を見ていると、#◯✖️公園と書かれていた。もしかして、まだ近くにいるかもしれない。僕は急いで向かった。
公園へ行くと、1人の女子高生がブランコに座っていた。見慣れた制服……僕は彼女に近づいた。まさかN.iさんの正体は……。僕が確信をもっていると、彼女がブランコから降りて、こちらを見た。僕は目を大きく見開いた。
「初めまして……っていうのはおかしいかな。N.iこと飯島なつみです」
「い、飯島さんが……いつもコメントをくれるN.iさんだったなんて」
「驚いた?」
僕は無言でうなずいた。だって本当にビックリしたから……。
「僕のエンスタだって分かってたの?」
「最初は川崎くんだって気付かなかったよ。たまたまカフェの写真が流れてきて、オシャレなカフェの外観やメニューに惹かれていったんだ。それから、カフェの写真が次第に気になり出して、定期的に見ていくうちに川崎くんのアカウントだって分かったんだ」
「その辺りからコメントも?」
「そう。文面でいつかバレるんじゃないかって、すごくヒヤヒヤしたよ。でも案外バレないもんだね」
彼女がいたずらっぽく笑う。そして僕に訊ねてきた。
「……N.iの正体がバレちゃったけど、来週一緒にカフェ行ってくれるかな?私、どうしても行ってみたいんだ」
「もちろん!!逆に僕なんかでいいの?」
すると、彼女は頬を赤らめながら言った。
「うん……川崎くんとがいいんだ」
僕は胸の鼓動が高鳴るのを感じながら、軽くうなずいた。
「じゃあ来週、待ってるよ。」
彼女は嬉しそうに微笑んで、「楽しみにしてる」と静かに言った後、その場を去っていった。 彼女の背中を見送りながら、僕は自分の顔が火照っているのを感じる。これが夢じゃなければ、僕は本当に運を使い果たしたのかもしれない。
でも、もしそうなら……それでもいい。僕は笑顔を抑えきれず、その足で一樹店長に会いに行った。
ーカフェー
「……なるほどね。しかし、本当よくやったね!!」
俺は心から喜んだ。和真くんも頭をかきながら照れている。
「お二人のおかげです。来週は楽しみたいと思います」
「これは俺たちも頑張らないといけませんね。一樹さん」
「そうだね。料理頑張らないと。彼女に喜んでもらえるように」
俺たちも気合いが入っていた。その日は景虎によるエスコートの仕方を教わって帰宅していった。
「ありがとう景虎。俺恋愛に疎くてさ」
「こういうときは俺に任せてください」
俺たちも来週が楽しみで仕方がない。一体どんな子が来てくれるんだろう。
続く。
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