〜エンスタとN.iさん〜

「聞いてください!!実は!!」

 興奮気味の和真くん。一体どうしたんだろうか、こんなテンション高い子だったか?

「とりあえず席に着こうか」

 彼を席に座らせて話を聞くことにした。オーダーがなくて手が空いている景虎も傍らで一緒に話を聞くことに。

「それで一体どうしたんだい?すごく嬉しそうだけど……」

 彼は今までに見たことないくらいの笑顔だった。

「えへへ、実は……好きな人とここでお茶することになったんです〜♪」

 俺たちはそれを聞いて嬉しくなった。

「マジか!!やったじゃんか」

 あまりにも嬉しくてハイタッチをした。

「ありがとうございます!!」

「しかし、一体どういう経緯でそうなったんだ?」

 景虎が前のめりで訊ねた。すると和真くんは笑顔で話し始めた。

「僕が好きな人を誘えたのは、僕がアップしたエンスタがきっかけでした……」

 

 僕の好きな人の名前は飯島なつみさん。同じクラスで、席も隣なんだ。僕がこの店を知ったのは1か月前、たまたま学校帰りに見つけたんだ。

「こんな所にカフェができたんだ。しかもメニューも美味しそう。値段もリーズナブルだし。ちょっと入ってみようかな」

 店内に入ると、森の中に入ったような木の香りがした。新築だからかもしれないけど。ここにいるだけで癒される。

「いらっしゃいませ。何名さまですか?」

 奥からすらっとした高身長の男の人が出てきた。その方は笑顔で僕に訊ねた。優しそうな方だなあ。

「あ、1人です……」

「どうぞ、空いてるお席へ」

 店内はヒーリングミュージックが流れていて、読書や勉強がはかどりそうだ。小腹が空いたので、おススメの桃のパンケーキを注文した。パンケーキがくるまで宿題をしながら待っていた。しばらくして、「お待たせ致しました」とさっきの方が持ってきてくれた。この方は店長さんかな。それにしても、パンケーキめちゃくちゃ美味しそう!!僕は写真を何枚か撮った。

「あ、あの……エンスタにアップしてもいいですか?」

「お店の宣伝にもなるし、ぜひ。ハッシュタグたくさん付けてくださいね♪」

「はい!!」

 その日から僕はカフェで食べたメニューと感想をエンスタにどんどんアップしていった。そのおかげかイイねとフォロワーが増えた。しかも嬉しいコメント付きだ。

『◯✖️町にこんなステキなカフェができたんだね!!行ってみようかな』

『パンケーキめちゃくちゃ美味しそう〜♪私も食べてみたい』

 などなど。いつもコメントをくれるのは決まってN.iさん。文面から予想するに女性ということしか分からないけど、いつも温かいコメントをくれるんだ。初めてコメントをくれた日のことは今でも覚えている。


 それは僕が初めてカフェに行った日の帰り道、駅のホームで電車を待ちながらエンスタを編集していた。

『◯✖️高校の近くに隠れ家みたいな感じのカフェを見つけました。店長さんも優しくて居心地も良かったです。それからパンケーキが魔法みたいに口の中で消えました。めちゃくちゃ美味しかったです♪これから学校帰りに定期的に通おうと思います。

#カフェ、#魔法のパンケーキ、#カフェ好きな人と繋がりたい』

 よし、これでオーケーだ。あとは写真をチェックしてアップするだけ。アップしてからしばらくすると、通知が入ってきた。アプリを開くとメッセージが一通きていた。

『初めまして、N.iと申します。私も◯✖️高校に通っています。ステキなカフェが、高校の近くにオープンしたなんて知らなかったです。カフェの投稿これから楽しみにしています♪』

 今までコメントなんてもらったことなかったから嬉し過ぎる。僕は早速返事をした。

『初めましてコメントありがとうございます。ちなみに僕は一年生です。カフェの内装が森みたいで癒されました。ぜひ行ってみてください♪』

『そうなんですね!!私、自然大好きです。バイト代入ったら行ってみます』

 普段から僕が内気過ぎて女子とやりとりしたことないから、すごく新鮮だったな。それに顔も見えないから緊張せずに話せたし。現実でもこうやって話せたらいいのにな。



 そしてやり取りが1か月ほど続いたある日、僕はN.iさんのことが気になっていた。一体どんな方なんだろう。文面が丁寧だから、きっと優しい方なんだろうな。思い切って「会いたいです」って送ってみようかな。キモいって言われたらどうしよう……。


 ところが、ひょんなことで遂にN.iさんの正体を知ることになる。



続く。

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