第27話
まだだ、まだ粗い。こんなんじゃ魔力の流れの綻びに気づかれてしまう。相手は公爵家だぞ。護衛だってフィリルクラスの実力者がいるとしてもおかしくない。それなのにこんな稚拙な技術じゃこちらをしっかりと観察されれば気づかれてしまう。
「・・・カ。・・・したよ」
それだけは避けなければならないのだ。ならばどうすればいいのか・・・。考えろ、思考を止めたらそこで終わりだ。・・・そうか、分かったぞ。こことここ。顔周りと首の周辺の流し方が非効率だ。今は力業で通常時の流れを再現しているだけだがこれをあえてそのままの流れにする。
「・・ルカ。もう来て・・・」
これだ!流し方をあえて自然体にすることでさっきまでとは段違いに良くなった。俺自身にかかる負荷も軽くなったし綻びもほとんど気づけないほど改善されている。
「しょうがないですね。もうこのまま引っ張って・・・」
この感覚を忘れない内に体に覚えこませなければ・・・。
そうして無心で先ほどの再現をしているとふとどこからか強い衝撃を感じた。だがそんなものを気にしている暇などないためすぐに意識を戻す。
が、衝撃は一度では無かった。むしろ段々とペースが速くなっている気がする。さすがに鬱陶しくなってきたので衝撃の原因を探ろうと辺りを見渡したところで・・・。
「あれ、ここど・・・なんで玄関に?」
おかしい。さっきまで俺は自室の部屋にいたはずなのに何故いつの間にか玄関前にいるのだろうか。
不可解な現象に首を傾げていると頭を強く叩かれた。
あ、この衝撃。さっき感じてたのはこの頭を叩かれた感覚か。先ほどまでは意識していなかったからか全く痛みが無かったのだが今回のは割と痛かった。
「イテッ、何するのさ」
「はあ、やっと戻ってきた・・・」
叩かれた方を振り向くと母さんが呆れた顔をしてこちらを見ていた。
「というか俺いつの間に玄関に来たの?それに皆なんで集まって・・・あ、もしかしてもう来るの?公爵家の人たちが」
周囲を見渡してみると母さん以外にも父さんやフィリル、そして屋敷にいる半分以上の使用人たちが集合していた。一体なぜ・・・と思ったがよく考えてみたらそろそろ客人が訪問するからと気づいた。
「その通りです。アルカに関しては先触れの人が来たから玄関まで行くと言っても全く反応しなかったのでしょうがなく私が運びました」
ああ、練習に夢中で気づかなかったわけね・・・。そりゃ申し訳ない。
「そうだったの・・・。ありがとフィリル」
ひとまずとんでもない醜態を晒さずに済んだことを感謝しておく。
「別にいいですよ。それよりももう先方の馬車は到着しているのでお静かに」
え、もう来てんの?まだ心の準備ができてないんだけど。
ひとまず言葉の真偽を確認するために気配を探ってみると6人ほどの気配を感じた。うち三人は強そうな感じがするので恐らく護衛だろう。残りは使用人とリルカかな・・・?
えー・・・まじでいるじゃん。もう来てんじゃん。
ひとまず急いで変装魔法を発動する。あんだけ練習したのに使いもしないでバレるなんてことになったら滑稽だからな。
さっきまでの練習の甲斐あって完成度はここ一週間の中で最高の出来だ。おそらくこれならフィリル相手だろうと30分は完全に違和感すら持たせずに騙しきることが出来るだろう。
幸い護衛の人たちもフィリルほど強い人はいなさそうだしな。
これでもう俺の勝利は確定したも同然だな。わははは。
まあ別に何も勝負なんてしてないけど。
ちょっと興奮してるな俺。もう扉の目の前にいるんだから落ち着かなくちゃ。
一つ深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、今開き始めた扉を見据える。
扉の先には今回の被害者でもあり元凶でもあるリルカ・ゲルマリオンがいた。そしてその隣には・・・うわ、あの時俺を捕まえようとしてた護衛じゃん。依頼書を見て大分不審な言動をしてたから関わりたくないんだけどなあ・・・。
まあ俺がそんなことを内心で考えている間にも状況は進む。
「よくぞいらっしゃいましたリルカ・ゲルマリオン様。ようこそ我がバーナード家へ」
父さんが当主として場を代表して歓迎の意を示す。
「ええ、ありがとうバーナード伯爵」
その言葉にリルカが感謝を返してひとまず屋敷の紹介ついでにそれぞれの部屋に案内することになった。
「それじゃアルカ。リルカ様をよろしく頼むわね」
「分かったよ」
訪問客たちを案内する者以外は解散したのだが去り際に母さんから再度念を押された。
まあ今更逃げる気はないけど本当にやるきがしないなあ・・・。でもやんなきゃだしなあ・・・。
そんな内心を悟られないよう、にこやかにリルカに接する。
「初めましてリルカ・ゲルマリオン様。私、バーナード伯爵家が長男アルカと申します。今回貴方様の案内をさせていただきますのでどうかよろしくお願いいたします」
「そんなに堅苦しくしないで、リルカでいいわよ。久しぶりねアルカ。いや、それともアルニカーントって呼んだ方がいいかしら?」
そういってリルカはこちらに微笑みを返してきた。
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほぇ?
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