第26話
「・・・はあ。じゃあ今日の予定を話すから今度は聞き逃さないようにね」
息子の残念振りに呆れながら母さんが今一度予定を伝えてくれる。
「はい!分かりました!」
「全く・・・態度だけはいいんだから・・・。まずは夕方頃に公爵家の方々がこちらに訪問なさるわ」
「あー、うん。それは知ってるよ」
「ええ、分かってるわ。それで到着前に先触れとして使用人が来るらしいからその人が来たらひとまず玄関前に集合よ」
「分かったよ」
「で、そしたら公爵家の方を出迎えて屋敷を案内してもらうわ」
「へー、誰に?」
「今回いらっしゃるのは三女のリルカ様以外は護衛や使用人だからその人たちはメイドたちに任せるわ」
「その人たち”は”?・・・じゃあリルカ・・・様は?誰がやるの?」
おい、待てよもしやあなた・・・。
「アルカよ」
いやふざけんな。こちとら一分一秒でも顔を合わせたくないんだけど?いくら変装の魔法があるからってそれを過信するわけにもいかないのに。
「え、なんで?使用人じゃダメなの?」
「ダメなのよ」
「なにゆえ?」
「誠意を見せるとかそういう意味合いもあるけど一番の理由は先方が来た目的がアルカだからよ」
「なにそれ・・・どゆこと?」
それ一週間前も言われてたけど俺が目的って言っても何のために俺を目的にしてるんだ?いや、俺とフィリルはこの前の王都の件だと分かってるけど母さんたちには何て伝えてあるのか。
「さあ?それについては詳しくは何も書かれてないから分からないわね。まあとにかく頼んだわよアルカ」
「えぇー・・・・・・・・・。はぃ」
プライドをかなぐり捨てて今すぐにこの場で土下座してでも断りたいがどうせ何をやっても無駄だって分かっているので嫌々了承した。
「そんなに嫌そうな顔しなくても・・・。じゃ、頼んだからね」
「・・・・・・それで他の予定は?」
「それぞれ客室に案内後、少し休憩をして頂いたあとに会食になるわ」
「ちなみに滞在予定とかって聞いてる?」
「うーん・・・。それがいまいち要領を得なかったのよね。何もなければその日のうちに帰るとも書かれているし場合によっては一週間以上滞在するとかもあるわ」
ああ、なるほど。つまりは俺が目的の人物だってバレなければその日のうちにお帰り頂けるということか。ここはいっちょ気合いれて変装して即お帰りを願おうか。
「なんか急に元気になったわね・・・。まあとりあえず今日の予定は以上よ。分かったわね」
「うん。分かったよ。絶対にすぐ帰らせてみせるよ!」
「・・・とりあえず失礼なことはしないようにね」
なにを言ってるんだ。そんなことするわけないだろう。こちらはあくまで穏便に何事もなく帰っていただきたいのだ。
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「・・・っていうのが朝にあったんだけど聞いてた?フィリル」
さっきようやく起きたフィリルが今日の予定を聞いてきたので朝食での出来事を伝えておく。
「ふわぁ・・・大丈夫です。聞いてましたよ。にしても出迎えに会食は私がいない方がいいのではないですか?あくまで私はアルカの家庭教師であってバーナード家の人間ではないのですし」
「なに言ってるのさ!フィリルはもううちの家族みたいなものでしょ!少なくとも俺はそう思ってるし父さんや母さんもそう考えてるはずだよ」
そう俺は力説する。
「アルカ・・・」
するとフィリルは感極まったのか言葉を詰まらせた。
「それはただ単にあなたが私だけ楽するのが許せないからってだけですよね」
違った普通に見抜いてて呆れてただけだったわ。
「なんだバレてたか。まあ理由はともかくさっきの言葉は嘘じゃないから。だからそんなこと言わないでよ」
だが別に家族云々も本当のことではあるので一応言っておく。
「・・・!そうですか。まあ、その、礼は言っておきます。ありがとう、アルカ」
「ん、どうも。まあ礼なんていらないけどね」
その後昼食を食べるためにもう一度フィリルと一緒にリビングに行って今日の日程について改めておさらいを受けた。
そして食べ終わったあとはひとまず先触れの人が来るまでは自由時間なのだが・・・。
「まだです。まだ維持が甘いです。そんなんじゃすぐバレますよ。いいんですか、バレても?」
「いや、だ。絶対に・・・嫌だ!」
俺は絶対にバレないため最後の追い込みに入っていた。
簡単に言えばフィリルにスパルタ指導をしてもらって僅かな粗すらも残さないように必死で変装魔法をブラッシュアップしているのだ。
なにせ今日唐突(実際にはエリアを通して伝えていたらしいので母さんから見たら唐突ではないが)にリルカの案内をこちらに任されてしまったせいで出迎えと会食だけでなくさらに多くの時間接触しなければならないことが確定したからである。
出迎えや会食は多対多だからいいが、案内は恐らく一対一。もし護衛がついてきたとしても二対一だろう。そうすれば必然的にこちらに注目されることになってしまうためバレる危険性が上がる。というか俺としては護衛にバレる方が容認できない。なにせ例の依頼書の件があるからだ。もしかしたらあれは公爵家のお家騒動に繋がる重大な証拠なのかもしれないのだ。それにどんな理由であれそれなりの不祥事には変わりない。なので絶対に失敗するわけにはいかないのだ・・・!
そうして俺は先触れの人が来るまでの猶予を必死に変装魔法の鍛錬に費やすのだった。
ちなみにだが、もしアルカの両親にこの現場が見つかったら二人とも膝から崩れ落ちるほどにガックリとするだろう。“そこまでするほど社交界が嫌なのか”、と。
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