第25話
怒られるかもしれないと少しビクビクしながらエリアに連れられリビングに着いたが先に来ていた両親の俺への反応は想像と少し違っていた。・・・まあこれはこれで辛かったが。
「アルカ・・・まずは顔を洗いなさい。何というか・・・色々酷いぞ」
俺は邂逅一番にそんなこと言ってくる父さんの方が酷いと思う。
「はあ・・・その顔を見たらもう怒る気も失せたわ。とりあえず朝食を食べながら今日の説明をするから早く顔を洗ってシャキッとしなさい。なんなら別にシャワーを浴びてきたっていいわ。先方に失礼があってもいけないし」
いや母さん。別に風呂には入ってたよ?時間帯が大体深夜だったからずっと出会わなかっただけで睡眠以外のことはちゃんと最低限済ませてたよ?
「・・・ねえエリア、なんで言ってくれなかったの」
とりあえずこうなることが予想できたであろうエリアに疑問をぶつける。
「いやもうそれはここ六日間私が気まずい目に有った仕返・・・ごほん!こうすればアルカ様がお二人に叱られずに済むと考えたからです」
「そう、後半だけなら間違いなく君の昇給を願い出るぐらいはするほど感謝してたけど前半で本音出してるから昇給は無しだね」
「待ってくださいアルカ様、結果としてはあなたの望むものになったんですから考え直しませんか。2割増し・・・いや3割増しだけでもいいですから」
「なんで増えてるのさ・・・。あ、ありがとシエラ」
いつもの無表情ながら身振り手振りを交えて力説する珍しく感情的なエリアを見ながら彼女の母であるメイド長が差し出してくれた濡れタオルで顔を拭う。
「いえ、礼には及びませんよアルカ様。それよりもエリア」
そう言って自らの娘を冷たい目で見降ろす
「む、なんですか今いいとこ・・・お母さん・・・」
名前を言われ渋々といった様子で呼ばれた方に振り返るが話しかけてきた人物を認識した瞬間、エリアからさっきまでの勢いが消え去った。
「はあ、あなたは何度言えば・・・」
そして始まるお説教。
「いや、あのーこれはちょっと違くてですねー・・・」
「・・・ふふっ」
俺よりも年上とは言っても精々5歳差なのでエリアはまだ10歳。全然子供である。だから年齢を考えれば普通の出来事なのだがいつも飄々としていてマイペースな態度ばかりのエリアの様子がなんだか面白い。
「いやあのアルカ様、笑ってないで助けて」
おっと聞こえてしまったか。にしてもかなり余裕がないらしい。こういう状況だといつもなら静かに遺憾の意を表明してくるというのにただこちらに助けを求めるだけである。あのエリアがそこまで追い詰められているのかと思って少し可哀そうになり言われた通り助けてやろうとも思ったが・・・。
「ねえ、シエ__」
「あなた・・・。この期に及んで全く・・・。この場で主であるアルカ様に話しかける、ましてや助けを乞うなんて一体どういう了見ですか。あなたには使用人という自覚はあるのでしょうか」
シエラが静かなのにとてつもなく圧がある怒り方をしているせいで断念した。だって怖いんだもん。すまんなエリア。後でこの前言ってたスイーツ、討伐の帰りに買ってきてやるから許してくれ。
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「それで、夕方頃に公爵家の人たちが来るのは聞いたけど予定はどんな感じ?」
ひとまずエリアのことは忘れて朝食を食べながら今日の予定がどうなっているのか聞く。
あ、長くなるからってどうやら別室で説教されるようだ。引きずられているその生気のない目は一か月前に見た今日来る予定のリルカ・ゲルマリオンが暴漢もどきに襲われていたときにしていた目よりも暗く濁っている。
・・・それほど辛いのかシエラの説教は。・・・南無。
せめて安らかにと祈っておいた。
「一応エリアには伝えといてって言ったんだけどね・・・まあどうせあなたのことだから聞き流したんでしょ」
「いやそうやって決めつけるのは良くないと思う。それに母さんは息子を信じてないの?」
まあ俺もそうだと思うが一応軽く反論しておく。確実に否定できる人間がついさっきここから連れ去られたことだし。
「いや、信じてるわ。あなたの夢中になったこと以外のものに対する雑さをね。それにあの子がそんな伝達ミスなんて初歩的なやらかしをすると思う?」
まああんな性格だが彼女は既に見習いじゃなくても十分なくらいには仕事ができる。見習いという今の立場はシエラが娘を将来自分の後継にするためにあえて厳しくしているが故のものなのだ。なので母さんの言う通りそんなミスを彼女はしないだろう。
「まあ思わないけど・・・」
「最初から分かり切ったことを言わせないで。怒らないからその無駄に抵抗するのをやめてちょうだい。というか次やったらそっちの方を怒るわよ」
「はい、すいません。もうしません」
なんというか癖になってるんだよねこういう自己保身?的な言い訳。こういうんだから性格が悪いって言われても否定できないんだよなー。
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