第24話
変装魔法の練習を始めてから5日目。ついに待望の瞬間が訪れた。
「・・・はあ、よし。いくよ」
「ええ、いつでもどうぞ」
ここ5日ですっかり習慣化したフィリルによる完成度チェック。昨日まではあまり手ごたえがなかったのだが今回は違った。
「・・・これならどうかな」
「ええ、十分でしょう。私もそれがアルカだって分かっていなかったら騙されるかもしれないくらいにはいい出来ですよ。全く、たった5日でよくここまで仕上げたものです」
「いやー、人間死ぬ気でやれば何年もかかるような魔法だって5日で覚えられるってことよ」
「・・・いやまあ確かに死ぬ気ではやってましたね、5徹してますし。ただ言っておきますけど私が言った数年って覚えるだけであってそこまでの完成度に持っていくには更に数十年かけるものなんですけど・・・」
「ま、いいじゃんできたんだし。それに悪いことじゃないでしょ。そんなことより後は父さんと母さんに魔法を使ってるようにバレないための隠蔽の練習もしなきゃ。また見ててよ」
「ええ、そうですね。分かりました。いい加減5日も付き合わされてかなり眠いですがいいでしょう。完成させなきゃ私も道連れにされてしまいますし、それにこうやって付きっ切りで指導をするのも久しぶりですしね」
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そして翌日。更に丸一日を隠蔽に費やしてついに完成した。
「・・・はあ、これで・・・どう・・・?」
「・・・ああ、・・・大丈夫ですよ・・・これならバレません・・・」
互いに6徹しているせいで眠気と疲労でボロボロだった。すでに魔法での誤魔化しも限界が来ていて、目は隈が酷くて生気がなく、表情は顔の筋肉が死んだのかと思うほどピクリともせず覇気がない。がその過酷な日々のおかげでむしろ魔法技術は格段に上昇していた。
「・・・はは、最初は今までの魔法と大分違うせいで隠す感覚が掴みづらかったけど・・・ようやく終わったー・・・」
「ええ・・・よく・・・やり・・・まし・・・zzz」
「あはは、寝ちゃった。ここ俺の部屋なんだけどな・・・。まあとんでもなく眠いのは分かるしいっか。それに・・・起こす気力も湧かない・・・し・・・」
そしてベッドに行く気力も湧かずに互いに床の上で泥のように眠るのだった。
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コツ、コツ、コツ、コツ。
・・・コンコン。「アルカ様?もしやまだ起きていらっしゃいますか?・・・失礼します・・・あら」
「zzz・・・・・・・はっ!今何時!?」
ガチャリと自室の扉が開く音で意識が戻った。まだ眠気は酷いが俺の記憶が確かなら今日がゲルマリオン公爵家の客人が来る日だったはず。寝坊していたらどうしようと焦っていたが使用人がたった今空けてくれたカーテンの外を見る限りまだ朝だ。予定されているのは夕方頃のはずなのでまだまだ余裕がある。
「安心してください。まだ朝ですよ。それよりも今日はようやく寝て下さったということは研究とやらもひと段落したのでしょうか?」
一応使用人にはこの一週間のことは魔法の研究としか言っていない。まさか今から来る客人から変装するための魔法ですなんて正直に言えるわけ無いしな。別に嘘を言ってるわけじゃないし。
「はは、そうだよ。ただ、今日客人が来るからあえて寝たというのは考えなかったの?エリア」
少し意地の悪い質問をメイド__エリア__にする。彼女は家で雇われているメイド長の娘の見習いメイドで、俺と年が一番近いため割と仲が良い・・・はず。この前王都に行って俺は友人が少ないということを実感させられたときに俺たちって友達だよねって聞いたら“使用人にそのようなことを聞くとはいよいよですね”と返された。俺は結構傷ついた。以来彼女、というか彼女含めた使用人は友人にカウントしないと心に誓った。
「ええ、そのような常識的な考えを持つ方は客人が来るまでにあんなにボロボロになりながらずっと部屋にこもって6徹なんてしないはずので」
「・・・それはそうだね」
ちょっとからかうつもりだったのが予想外に痛い反撃をもらってしまった。
「そんなことよりも朝食のご用意ができていますよ。旦那様や奥様もお怒・・・心配なさっていたので今日こそは私に運ばせるのではなく顔を出した方がよろしいかと」
「ねえ!ちょっと待って!怒ってるって言った!?怒ってるって言いかけて心配って言いなおしたよね!ねえ!」
「・・・んぅ。なんですかアルカ・・・うるさいですよー・・・まだ眠いんだから静かにしてください・・・zzz」
「さてアルカ様。フィリル様がご迷惑しているようなので早く行きますよ」
そう言ってこちらの腕をつかんで強引に引っ張ってくる。
「いやちょっと待ってよ、まだ俺は・・・痛っ!痛い痛い!無理やり引っ張らないでって!やめて、離して!」
「え、でも離したら逃げ出すのではないですか?」
「まあ、それはそ・・・イタタタ!やめてって!」
「でも逃げだすんでしょう?それならこうするしかないじゃないですか」
「分かった!逃げない!逃げないから!自分でちゃんと行くから!だから離して!」
「・・・本当ですか?」
「いや、ほんと、ほんとだから」
「・・・いやでも信じられない」
「しつこいな!いいから離してって」
「はあ・・・冗談です。どうぞ」
そういってようやくがっしりと抱えられていた腕が離される。
「・・・はあ、エリアって俺が雇い主ってこと分かってるの?甚だ疑問なんだけど」
「ええ、分かっていますよ。・・・あなたが思ってるよりも」
「・・・?どういうこと?」
そう言ったエリアの顔はどこか暗いような気がして・・・彼女の普段のマイペースな態度からは想像がつかなくてつい聞いてしまった。
「なんでもないです。それよりも無理やりほどくこともできたのに何で逃げなかったのですか?」
だがはぐらかされてしまった。・・・まあ気にはなるが本人が言いたくないなら無理に聞き出すことじゃないか。それに雰囲気も普段のものに戻ったし。
「だってあんなにしっかり掴まれてたのに無理やりほどいたらエリアがケガするじゃん」
「あら以外、そんな気遣いがアルカ様にできたとは」
「うるさいな!いくら俺でもそれぐらいの分別はあるよ!」
「へー、そうですか。すごいすごい。あらちょうちょ」
「いや聞けよ!」
そうやって軽口を叩くことで俺はここ6日間会っていない両親との邂逅から現実逃避をするのだった。
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