第23話

「そういえば今回リルカはいつまでいられるの?」


今はかなりの高頻度で来ているためあまりその意識はないが一応客人であるリルカも含めて食事を取っている最中だ。


「えーっと、冬になるまでには帰って来いって言われてるからあと三か月くらいかな」


ちなみに今は7月である。


「にしても毎回とんでもない滞在時間だよね」


もう彼女と知り合って三年目だがここが第二の家なんじゃないかと思うぐらいにはいる。というか一年の半分ぐらいはこっちにいる。


「しょうがないじゃん。アルカってこっちに引きこもってばっかで全く来てくれないんだもん。大規模討伐のときには異様にフットワーク軽いくせに」


「そうだぞアルカ。リルカ嬢の言う通りだ。いい加減招待状もこんなに届いている。そろそろ引きこもるのはやめたらどうだ。」


「拒否権があるの忘れてないよね」


リルカに便乗して都合が悪いことを言い出した父さんを黙らせながら俺はなぜこんなことになっているのかの経緯を思い出していた。



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始めはそう、確か王都から弾丸帰還した一か月後だった。


「アルカ、今から一週間後にゲルマリオン公爵家の方が訪ねてくる。くれぐれも失礼の無いようにな。」


夕食のときに父さんが言った言葉に俺は震えあがった。いや、”俺たちは”だな。なにせフィリルもぱっと見はいつもの無表情だったがよく見るとその長い耳がピクピクと小刻みに震えていたから。


夕食が終わった後、俺たちは二人で話し合っていた


「アルカ!バレないんじゃなかったんですか!」


「俺もなんでバレたのか分からないって!ちゃんと口止めもしたし家名なんて一切出してなかったし!」


「でも実際来ちゃうじゃないですか!問題のタネが!」


「・・・ちょっと待ってフィリル。まだ可能性はあるよ」


「・・・どういうことですか?」


「父さんの態度を思い出して。もし俺たちの王都での行動がバレてたら普通に叱られてると思うんだ」


「・・・それはまあ、確かに?」


「でもそうじゃないってことは少なくとも先方は父さんには伝えてはいないはず。それはなんでだと思う?」


「・・・王都で騒動に巻き込まれた少年がアルカだと確証が持てていないから?まだ未確定だから当主のシェリフ卿には伝えずにあくまでこちらに来て確認する気でいる、そういうことですか?」


「うん、少なくとも俺はそう考えてる」


「つまり今すべきことは・・・」


「「雲隠れ!」」


雲隠れ、まあつまりは魔物討伐の遠征で客人がいる間は留守にしようというわけだ。


早速それをフィリル共々父さんに伝えにいったのだが・・・


「ダメに決まっているだろう。どうやら先方の目的はアルカらしいからな」


と、絶望のどん底に叩き落すことを言い放った。


「え?いや待って。拒否権は?」


「あくまでもこれは客人の訪問だ。社交界とは言えないだろう。よって却下だ」


「いやそんなの詭弁でしょ!」


「ならば私を納得させられる反論をできるか?」


そう言ったシェリフは父ではなく貴族としての顔をしていた。ふざけるな、家族に対する仕打ちじゃないだろこんなの。


「・・・せいぜいハゲろ!」


それに対して俺は当時覚えたての呪詛しか返せなかった。


「え、いややめろ!やめんか!くそっ、覚えたてのくせに無駄に上手いせいで防ぎづらい!」


何か言ってた気がしたが何て言っていたかは聞こえなかった。なにせそれどころではなかったから。


「フィリル・・・」


「すみませんアルカ、私は今日から2週間ほどいなくなるので・・・」


「逃がすわけないでしょ。というか逃げたら俺は絶対にお前を巻き込む」


こうなれば死なば諸共の気持ちだった。


「ちっ・・・そうですね、必ず出なければいけないのなら変装するのはどうですか」


「え、でもそんなことしたら普通に怒られると思うんだけど」


「いや、物理的にじゃないですよ。千変万化イミテーションという魔法がありましてね、自らを正確に捉えられなくする魔法です。これは容姿が変わって見えるとかではなくて、例えば絶対にありえないですけどリンゴがこの魔法を使えば赤くて丸いというのは分かるけどリンゴには結び付けられなくなる、みたいな効果です。もちろん特定の人物にかけないようにすることもできます」


「その魔法なら今回来る客人にだけ誤魔化すことができると?」


「その通りです。ただこの魔法は本来エルフ族の為にあるようなものでしてそれでも数年単位で修得するのに人族なら更に時間が・・・」


「いいじゃんそれ!早く教えて!一週間で完璧にマスターするから!」


フィリルが何か言っていたが耳に入らなかった。だってもう俺にはこの魔法しか手段がなかったから。


それからリルカたちがバーナード領を訪れるまで俺は必死でこの魔法の練習をし続けた。


「アルカ・・・もう3日も寝てないんですよ。気持ちは分かりますが最低でも仮眠ぐらいはとらなきゃ効率が落ちますよ」


「いや、大丈夫。回復魔法でドーピングしてるから」


「何やってるんですか!そんな無茶な使い方してたら死・・・にはしないですね。そういえば見た目で騙されそうになりますけど下手な大人よりもよっぽど頑丈でしたね」


「魔物を狩りまくったおかげでね。それよりもフィリルの目から見てこれはどう?ちゃんと誤魔化せそう?」


「・・・ほとんどできていますがもう一声って感じですね。もしかしたら護衛などに勘が良い者がいたら見破られる可能性があります」


「そっか、じゃあまだまだだね。せめて父さんたちを騙せる程度にはしないと」


「・・・3日でここまで上達するとは。普段以上にものにするのが早いですね。いつもやる気はありますがここ3日はそれを更に上回って鬼気迫るといった様子でしたしそれも当然ということなのでしょうか」


もし彼女の雇い主が聞いていたらそんなに嫌なのかとあまりに貴族に向かない息子の性分に肩を落とすようなことを呟くフィリルだった。






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