第21話
「忙しいというがそれはゲルマリオン公爵家の三女であるリルカ様の命令よりも優先されるべきものなのか?」
うーん・・・どう答えようか。まず嘘は付けない。そんなことをしたら詐欺罪で訴えられそうだから。
「ええ、誰とは言えませんがこちらもさるお方のためですので。重要度でいえば変わりないかと」
まあ、さるお方とは俺とフィリルのことなのだが。さすがに公爵家といえど三女と伯爵家の次期当主である俺、そしてすでに爵位持ちのフィリルと比べれば後者の方に比重が傾く。そしてお互い私情だしな。これなら嘘は言っていない。
「ふむ・・・ではそれを証明できるものはあるのかね?」
「申し訳ありません。私にはそれが誰か申し上げることができないのです」
だって言っちゃったら完全に身バレしちゃうからね!
「そうか。ならやはり私に付いてきてもらおう。悪いがこちらにも面子というものがあるのだ。助けていただいて礼をしないなど貴族としては恥さらしもいいところだからな」
何も関わらないことが一番の礼なんだよなあ・・・。しょうがない、イチかバチかだがあの話題で揺さぶってみるか。
「そうですか・・・ちなみに話は変わりますがそのゲルマリオン様を襲ったものの身分はすでに分かっているのですか?」
「ああ、犯人はスラムにいるごろつきだと判明している」
・・・釣れた。
「へー、あの一瞬でもう分かったんですか。さすが公爵家に仕える騎士ですね、仕事が早い。ちなみに動機は分かってるんですか?」
「もちろんだ。どうやら彼はその日食べるものにも困っているほど生活が困窮していたようで身代金目的で拉致しようとしていたらしい。全く、私がはぐれてしまった間にこんなことが起こるなんて。君が助けてくれたからいいがもし誰もいなかったと思うとぞっとするな」
「そうですか。ちなみに彼、身なりがスラムの住民にしてはやけに綺麗でしたし脅しに使っていたナイフはまるで買ったばかりのように新品でしたが?」
「そ、そうか?・・・身なりについては服飾店から盗んでナイフについてはたまたま新しいのを誰かから盗んだだけじゃないのか?」
「そうですか・・・」
まだダメか。かなり気が散っているようだがそれでも目はこちらから離していない。こうなったらあれを見せるしかないか。
「ちなみに彼を取り押さえたとき、まだ凶器を隠し持っていないか調べたときにこんなものを見つけましてねえ・・・」
そういってアルカがとりだしたのはゲルマリオン公爵家から先ほどの暴漢__いや、暴漢のふりをした冒険者__への依頼書だった。内容は既定の日時に通る女児の拉致未遂。
「なっ!・・・なぜそれが・・・。処分しろと伝えたはずなのに・・・。こちらを信じていなかったのか・・・!」
今だ!相手はこの依頼書に釘付けになっている!
「行くよ!フィリル!」
「ええ、待ちくたびれました」
「・・・なっ。待てっ!お前ら!・・・な、あのエルフ族はもしやフィリル名誉子爵!?人嫌いで有名なはずの彼女が何故・・・。いや、だとしたらあの少年は・・・」
俺は十分距離を取ってから、フィリルはその必要がないのでそのまま騎士の至近距離から飛行魔法で飛び上がる。
依頼書に気を取られていたせいで反応が遅れた彼が当然俺らを捕まえられるはずもなく無事に屋敷まで逃げ切ることができた。
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「ふーっ・・・危なかったー。というかやっぱり燃費悪いなーこれ。マナポーションどこ?」
「魔法使いの代名詞とも言われるエルフ族すら一部しか使えないんです。むしろこの距離まで持つことが異常ですよ。はい、どうぞ」
とりあえず手渡されたマナポーションを飲み干してほぼ空になった魔力を回復する。
「でもさー、これをもっと長時間使えるようになればもっと行動範囲が広がるのになーって。速度は馬車なんか比較にならないぐらい速いのに」
「しょうがないでしょう。それもこれからの成長でどうとでもなりますよ。それよりもアルカ、これからはどうするんですか?こっそり聞いてた感じ想像の十倍くらい厄介そうな事情がありそうでいますぐ帰りたいのですが」
「うん、気が合うね。そのつもりだよ。とりあえず父さんたちを心配させないように書置きだけ残して先に領地に帰るよ。大丈夫、どうせバレないって。知り合いにはちゃんと口止めしたし特に証拠になるようなものも残してないから。幸い両親から社交界に出なくてもいいって言われてるから、あのときの!っていうのも王都かゲルマリオン公爵領に行かない限り無いはずだし」
言いながら両親への書置きを完成させる。
「冴えてますねアルカ。さすがは私の弟子です。では早く帰りましょう」
「うん、帰ろうか」
その後貴族街をまた飛行魔法で飛び越えたあと、王都の外に正規の手続きで出て無事に不法を犯した証拠を残さずに領地に帰ることに成功した。
「いやー、身体強化でひたすら走り続けるのも中々いい修行になるね。それに馬車よりも速いし」
「ええ、そうですねアルカ」
日をまたいでようやく屋敷についたとき、俺たちは達成感と妙な焦燥感に襲われた。まるで何かことをやらかしてしまったときのような・・・。まあいいんだ。きっとバレるわけないんだから。両親には不審に思われたり急に帰ったことに怒られるかもしれないが逃げなかったときのことを考えたらましだろう。
「ふー・・・王都はもういいかな」
「私もそう思いますよ」
こうして俺の王都観光は幕を閉じた。
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