第19話

とりあえず危険なのでナイフ以外にも凶器がないか暴漢をまさぐりながら彼女を観察する。あっ、うわっ、この紋章って・・・。まじでかー・・・。


助けた彼女は綺麗な金色の髪をしていて目はアメジストのようだ。顔立ちはまだ俺と同じくらいだというのに既に大人びた容姿と子供らしいあどけなさが両立していて美しいと言えるだろう。・・・やっぱりどっかで見た気がするんだよなー。でもこんな綺麗な子と会ってたら多分忘れないと思うから昨日の会にいたわけでもなさそうだし・・・。おっと、本人を前に考え込んでる場合じゃないな。


「立てる?手貸そうか?」


さっきまでのことが恐ろしかったのだろう俺と同じくらいの年齢だと思われる女の子は座り込んで静かに泣いている。


「ひっく・・・ひっく。・・・あ、ありがとう」


少し落ち着いてきたのかこちらの手を取りしっかりと立ち上がったあと、礼を言ってくる。あ、もう立ち上がったなら腕離して。え、なに?怖かったからもう少しこのまま?・・・まあ、いいけど。


「ううん、気にしないで」


というか今すぐに忘れるレベルで気にしないで。


「でも・・・いったいどうやって」


「ああ、それは魔法でちょっとね」


「すごい・・・私と同じくらいなのにそんなに強いなんて」


「あはは、ありがと。とりあえず似たようなのが来ても困るし早く騎士団の所に行こ。それとも一緒に来た人でもいる?」


「いる・・・けど途中ではぐれちゃった・・・」


そう言うとまた心細そうに腕をぎゅっと掴んでくる。


というかフィリル遅いな。しょうがない、置いていくか。まあどっかで合流できるでしょ。最悪見つからなくても屋敷に戻ってから改めて探せばいいし。


「そっか、じゃ詰め所の方に行くか。道は分かる?」


「うん・・・分かる」


「じゃ、案内してくれ・・・あれ?」


案内してくれる、と言おうと前を向いた瞬間に見覚えがある奴が見えた。というか今一番見たくない奴だった。だっていやな考えが頭を巡ったから。


「む、アルカか。昨日ぶりだな・・・ってこれはなんだ?事件か?」


「あ、ああ。ザイード昨日ぶり・・・。まあその通りかな・・・」


「坊ちゃま。こちらは・・・」


「ああ、彼がアルカだ。昨日俺が失礼を働いてしまった、な」


「なるほど、例の・・・」


そこには主人公が居た。お付きのメイドを連れて。


「あら・・・もしかしてあなたはあの『勇者』?」


「・・・そうだな。そう呼ばれている。まあそんなものには程遠いと思い知らされたばかりだが・・・」


なんだか向こうで話がはずんでいるようだがこっちはそれどころじゃない。


あー、これあれじゃん。完璧にやっちゃったやつじゃん。そうだよ、この子の顔に既視感があった時点でさっさと逃げれば良かったのに。


さっきザイードとお付きのメイドを見てようやく思い出した。これ主人公とヒロインの初対面のときのイベントじゃん・・・。やばいって、思いっきりストーリーに干渉しちゃったんだけど・・・。


「どうしたアルカ、何か浮かない顔をしているが」


「い、いやなんでもないよ」


まさか主人公とヒロインの出会いを邪魔したとは言えない。これまじでやっちまったー・・・。いやまだだ。まだ諦めんぞ。少しでも軌道修正するんだ。


「それよりもさ、この子君に任せていい?俺ちょっと今、人を待たせててさ」


別にこれは嘘じゃない。ただ待たせてる相手は身内で大した要件じゃないということはあえて言っていないが。


「え・・・、一緒に来てくれないんですか・・・?」


「あ、あーうん。ごめんねー・・・」


そう言うと彼女___あえて名前は聞かないようにしよう、もう色々な意味でこの件に関わりたくないから___は瞳を潤ませてこちらを見つめてくる。


まだ酷い目にあったばかりで心の傷が癒えていないのだろう。そのせいで助けてくれた人である俺が居なくなることに強い不安を抱いているようだ。


正直同情するし見捨てるわけではないのだが離れることに少し罪悪感が湧く。だがこれ以上面倒ごとに巻き込まれるわけにはいかないんだ、悪いな。


「なら、せめてお名前を・・・」


「アルニカーントだよ。家名はない。ちなみにアルカっていうのはあだ名だから」


「は?お前の名前はそんな長くないしアルカが本名だし、なんならバーナード伯爵家の次期とう・・・」


「アー!アー!アー!なんだか急に叫びたい気分だなー!」


黙れ!偽名で誤魔化そうとしてるのが分からないのか!身元を知られたら結局厄介ごとに巻き込まれるだろうが!何のために俺がお前に押し付けようと思って・・・!


「いやアルカどうし・・・」


「俺はただのアルニカーント。それ以上でもそれ以下でもない、お分かり?」


分かれ。さもなくば・・・分かるよな。そういう気持ちを込めて今も不思議そうな顔をしている彼女からは見えないようザイードを睨みつける。


「あ、ああ。そうだな」


何故俺が自らの身分を隠そうとしているのかについては理解していないようだが、こちらの必死さから何らかの理由があると考えたらしくこちらの話に乗ってくれた。


「そしてこの子を助けたのは俺じゃなくてお前。それも分かるな」


「いや分からないが」


「・・・?私はアルカに助けられたよ?」


ちっ、さすがに勢いだけじゃ誤魔化せないか。


「ねえ、アルカ。あなたってどこに住んでるの?助けてもらったお礼がしたいの」


「へ、へー。ちなみにそれってどんな?」


ただの金品とかだったら受け取るよ。もうありがたく頂いちゃう。あんなんいくらあってもいいからね。あと武器とかも歓迎するよ。最近そろそろ自分専用の杖が欲しいと思ってたんだ。フィリルももう持っても大丈夫って言ってくれたし。あ、でも剣もいいかな。剣術自体の腕前は大人と比べるとまだまだだけどやっぱり自分専用の装備ってかっこいいし。だからもしお礼とかするんだったら物がいいなー。それだったら今回の出来事もプラスの思い出にできる。


「うん!まずね、お茶会に招待するの。それでねそれでね、あなたが貴族じゃないならどこか縁のある家の養子にしてもらうのもいいかな。あ、それとも私を助けた功績で授爵させるのもいいかも。まだ私と同じくらいだけどあんなに強いなら心配ないよね。それに私の家ってかなり偉いから多少の無茶は効くし・・・それで最終的には・・・」


そうやって捲し立てたあと顔を赤らめる彼女。ああうん。君の家が偉いってとこで99%確信してたのが100%になったよ。完全にヒロインの一人だね。主人公の幼馴染で公爵令嬢の。あー、どうしよ。問題が一気に来過ぎて何も考えたくないや。




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