第18話
「とりあえず貴族街から出ましょうか。ここには特に見る者もないので」
「まあここ、対象が貴族ってだけでただの居住区だからね」
ひとまずフィリルの言う通りに貴族街の外まで行く。
「・・・はい、確認しました。ではいってらっしゃいませ」
「ええ、どうも」
門番の人に身分証を見せて外出許可をもらい、商業区へ出る。
商業区はまだ朝だというのに人の動きが活発で貴族街の静けさと比べれば少々やかましい。だがこの不思議とこの喧騒が嫌いじゃない。普段はうるさいのは苦手なんだけどな。
「ねえ、とりあえずこっちに出たけど最初はどこに行くの?」
実は貴族街は三つの区の中心にあり、外出するときはどこから出るのかを選ぶのだ。一つが今回フィリルに言われて選んだ商業区。二つ目が平民たちの居住区。三つめが工業区だ。まあ、工業区と言っても前世のような工場ばかりの感じではなく、職人たちが各々工房を持って活動しているらしい。
「えーっと、ちょっと待ってくださいね。今地図を確認しますから」
フィリルは俺の教師に就く前は身の回りを使用人にほとんど任せていて、屋敷が王都にあるのに余り詳しくないらしい。まあそれでも両親を除けば今居るメンツの中では一番王都を知っているのだが。
今も王都ならではの観光名所を30年ほど前にピックアップしてもらった昔の地図とにらめっこしながら道案内をしてくれる。
「まだ?結構歩いたけど全然それらしいものは見えないけど」
「いや、もう少しです。そう、ここの道を右に行った突き当り・・・」
「んー・・・これ?」
言われた通りの場所を見てみるがどうも地図に書かれているものと違う気がする。
「そう、ここ!ここで・・・す?」
それは今までほとんど地図しか見ていなく、ようやく顔を上げたフィリルも同じようだ。
「ほんとにここ?地図にはスイーツ店って書いてあるけど看板に思いっきり薬品ってあるけど」
もしスイーツがなんらかの違法ドラッグの隠語というなら正解の可能性もあるが。
「えー・・・おかしいですね。アルカはちょっとここで待っててください。今この店の人に聞いてみるので」
「え、いやどうせ地図が古いからで・・・行っちゃった」
いや原因は分かり切っているからそんなことしないで別の所を見て回りたかったんだけど・・・。
まあ行っちゃったししょうがないか。とりあえず大人しく待っておこう。別に待っていても暇ってことも無いしな。
王都はゲームだと工業区ぐらいしか描写がなかったので何かするでもなくこういう風に自由に見て回るだけで楽しい。
「・・・けて」
にしてもまだ朝なのに本当に活気が凄いな。八百屋のおっちゃんなんて前世のショッピング番組ばりに声を張って客引きをしているし、飯屋からは陽気な笑い声が漏れ聞こえる。
「だれ・・・たす・・・」
それだけじゃなく今も身なりのよさそうな令嬢を裏路地に引っ張ろうとする男とそれに抵抗する令嬢なんて滅多に見られないほど必死の形相を・・・あれ?
「誰か!助けて!」
「うるさい!黙ってろ!」
「たすムグっ・・・」
いや、やばいやばいやばい。のんきに見てる場合じゃない。今まさに拉致被害にあってる人を活気あるなあ、じゃないだろ!
「周りに気づいてる人は・・・いないか。くそっ、一応こっちに近づいてる人たちはいるけど足音からして両方とも軽いから子供か女性だし・・・」
こうして考えているうちにそろそろ向こうに限界が来そうだ。なにより令嬢はすでに絶望したかのような暗い目をしている。
「あー・・・もう!やるしかないか。ちくしょう・・・こういう事件って後処理が本当に面倒なのに!」
こういった事件に巻き込まれるとその日一日は確実に潰れるし、なにより被害相手は明らかに身なりのいい令嬢。絶対いいとこの出だろう。下手したら事件の重要参考人として王都に何週間も拘束されるなんてことも考えられる。だからできれば関わりたくなかったのだが不幸なことに気づいてる人は一人もいなく、こちらに近づいてくる者も気配や足音からして華奢な女性か子供だ。それに強者特有の圧を感じることもないので実は強いみたいな期待もできない。
対する今もお嬢様を拉致ろうと奮起している暴漢。こいつは何故か暴漢にしては身なりがきれいすぎるし、しかも昨日戦った近衛ほどじゃないがかなり強い。あー、絶対なんか裏あるよ。怪しすぎるもん。関わったら消されるとか無いよね。ここは王都。貴族なんて履いて捨てるほどいる場所だ。事実、いざというときの伯爵家の権力がどこまで通用するかも分からないし・・・。
「ほんとに何で誰もいないかなあ!」
だがそれが目の前の人を見捨てる材料にならないのも事実。あえて暴漢の前に姿を晒すように立ち向かう。
「・・・ぷはっ、おねがい!誰か助けを・・ぐ」
突然現れた俺に驚いた暴漢が拘束の手を緩めたすきに令嬢が俺に助けを呼ぶよう求めた。その目はさっきまでと違い光を取り戻していた。・・・なんだ?何かその顔に既視感があるような・・・。だが正気に戻った暴漢がまた口を塞ぐ。
「おい、ガキ。見なかったことにして今すぐ帰れ。そしたら見逃してやる、いいな」
そういうと俺にナイフを向けて脅してくる。そのナイフはまるで新品のようにピカピカでその日の食事にすら困ってるはずの暴漢にしては不自然で・・・は、いけない。余計なことは考えるな。とりあえず目の前のこいつを対処しなければ。さっさとこいつを倒して令嬢を無言で騎士団の詰め所に放り投げてすぐに逃げればなんとかなるかもしれないのだ。というかそうでも思わなければ面倒すぎてやってられない。
「ひっ・・・分かったから命だけは・・・」
「そうだそれでいい。分かったらさっさと行け」
ああ、令嬢の目からまた光が・・・。だがその目はすぐに困惑に染められる。
「ガッ・・・」
なぜなら自らを押さえつけていたものが急に無くなったからだ。
「あー、大丈夫?」
にしてもこんな演技にまた出番があるとは・・・。下手に抵抗されると面倒だから不意打ちで確実に仕留めるためにあえて姿を晒して油断を誘ったのだがこいつが用心深いせいで全然警戒を解いてくれなかったのでまた下手な芝居をするはめに・・・。
ほんとに強さといい暴漢にあるまじき警戒心といい何から何まで・・・いや詮索はよさなければ。気にはなるがな。
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