第16話

「ねえ、ちょっといいかな?」


「ごめん無理。今忙しいんだ」


目の前の料理を食べることにね。


先ほどの王妃との会話を終えて会場に戻った俺はまず先にザイードからの謝罪を受け取った。


いわく、王子に聞かされた人物像と全く違っていた。勘違いであのようなことをしてしまって申し訳ないと。許さなくてもいい。ただこの償いをすると。


別に俺としては彼自身にはそこまで思うところは無かったし主人公とは仲良くとまではいかなくても険悪な仲にはなりたくないので当然謝罪を受け入れ仲直りをした。


そのあと一緒に喋ったりデザートを食べたりして交友を深めた。


もう学園に行くまで顔を合わせることはないんだ。本当は一人で気楽に動きたかったが少しギクシャクしたままで長い別れとなるのは避けたかったので彼の行動に付き合った。


話してみると意外と気のいいやつであり原作と違って性格が悪いということも無かった。あくまでさっきまでの言動は勘違い故だったらしい。なんでもあの王子が俺のことをとんでもなく悪いやつといって、そいつを懲らしめて部下にしてやろうみたいなことを言っていたらしい。


うーむ知れば知るほど嫌いになっていくぞサルートー王子。ゲームでの役割は思い出せないがどうせ俺みたいに悪役だったんだろう。そうに違いない。


そして今はザイードとも別れて一人で多種多様な料理を食べているのだが・・・。


「な、なあ。今いいか?」


「よくないね」


話しかけてくるやつが多くて鬱陶しい。こっちが食べてるのが見て分かんないのか。どうせさっきの決闘について聞いてくるように親から言われてきたのだろう。


親から面倒くさいことを強制されるという意味ではシンパシーを感じないでもないが話に応じてやる理由にはならない。


そんなこんなでひたすらに話しかけてくるやつらをあしらいながら全ての料理をコンプリートして、王妃との話し合いから戻ってきた両親に渋い顔をされながら馬車で別荘まで帰ってきた。



「お帰りなさい、アルカ。初めての社交界はどうでしたか?」


「料理以外に特にいいところが無かったね。王子に変な理由で絡まれて最悪だったよ」


俺が苦しんでいた間も悠々と屋敷で過ごしていたフィリルが聞いてきたので素直な感想を述べる。


「絡まれた?一体何故?」


「俺も人伝てに理由を聞いただけだから詳しくは分からないんだけどね・・・」


そう前置きしてザイードから聞いたことと俺が体験したことを話す。


母に無理やり王子らのグループに放り込まれたこと。よくわかんないことで絡まれたこと。最終的に近衛と戦うはめになったこと。全てを話した。


「あー・・・。なんというか・・・想像以上に大変なことになっていたんですね」


それを聞いたフィリルは一言、同情しますと言った。


「そもそもさ、父さんたちも酷いんだよ。それとなく助けを求めたのに普通に無視してたしさ!」


「それはお前が自分一人でも解決できると思っていたからだな・・・」


「だとしても!だとしても近衛のときはさすがに手を出してくれてもよかったでしょ!あの人負かすために下手な芝居までしたんだけど!」


「むしろそれだけでよくあそこまで一方的に倒せたもんだ。近衛騎士に決闘で勝利する五歳児とか前代未聞の偉業だぞ。私たちが止めていたらそんなことも無かったと思えば止めなくてよかったと思わないか?」


「ないよ!そんな偉業達成させるな!俺、今日のあんたらは王子の次くらいにやばいと思ってるからね!?」


「まあまあ、落ち着いて。もう終わったことなんですし」


そうだな・・・。少しヒートアップし過ぎた。いやそうなっても全くおかしくないと思うんだけどな。


「・・・まあいいか。それよりももっといいことがあったし」


「いいこととは?好きな子でもできました?」


「なに、そうなのか?相手を言ってみろ。相手次第だがセッティングをしてやってもいいぞ」


いや、そうじゃないし・・・。全然そんな流れじゃなかったのに何でそっちの方向に向かうのさ。父さん乗り気過ぎるし。


「なに言ってるのシェリフ。あなたはあの場にいたから分かるでしょ。あのことよ」


「・・・ああ!あー、そういえばそうだったな。正直かなり嫌だったから無意識の内に忘れていた。王子のせいでトラウマを負ったという理由でどこまで戦えるかが肝だな・・・」


「まあその件はあの子もサポートしてくれるみたいだし気楽に考えましょ。もう約束しちゃったんだし」


「あのー・・・。抽象的過ぎていまいち話が見えてこないのですが」


おっと、フィリルへの説明を忘れてた。


「えっと、簡単に言うと学園卒業まで社交の場に顔を出さなくてもよくなったんだ」


「おお!めでたいですね!」


「でしょ!さっきメイドとか執事たちにも言ったときは全然共感してもらえなかったからフィリルまで微妙な反応だったらどうしようかと思ったよ」


そうなのだ。こんなにも喜ばしい出来事だというのに使用人たちは全く一緒に喜んでくれなかった。むしろ微妙な反応をされて少し気持ちが冷めてしまったのだがここにきてフィリルが俺の望んでいる反応を返してくれることが嬉しい。


「それは社交界に出ないなんて傍から見たら謹慎させられてるようにしか見えないからよ・・・。普通の子供はああいう煌びやかなものに憧れるものだと思っていたのだけどね」


だとしても俺の性格を知っている彼らはそんな反応をしなくてもいいと思うのだが。


「まあ、そんな普通アルカには似合わなかったようですが」


「そうだな、そういうところが普通だったら私はもっと楽だったのだがなあ・・・」


と今回の騒動の後処理を考えて遠い目になるシェリフ。まあ仕事と心労を増やしてしまったのは申し訳ないが話を持ち掛けたのはそちらなので遠慮せずにその権利を期限いっぱいまで行使させてもらおう。






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