第14話

「護衛の騎士と・・・。王子、今一度問います。本気で言っているのですか?」


「うるさい!なんども言わせるな!こいつに勝てなきゃお前は負けだ!そしたら土下座だからな!」


・・・おいおいまじかよ。なんど驚かせたら気が済むんだこいつは。さすがに三歳児の方が物の道理を弁えてるぞ。


この物言いには観戦に来ていたグループの子供たちや一部の成人している貴族の者たちも言いだした者の立場故言葉には出さないがその顔が雄弁に語っている。


さすがにそれは”ライン越え”だろ・・・と。


そもそも決闘はザイードに俺が勝った時点で終わりのはずだ。仮にさっき言ったことが王子自ら戦うという内容だったとしてもそれは現実を認められない子供の駄々であり、王子としての身分がある者が公の場で行っていい行為ではない。


だというのに実際は更に酷い。


子供の揉め事は子供同士で解決することが社交界の暗黙のルールだ。このルールは子供の喧嘩に大人が出るなどみっともないという考えと、子供なんてすぐトラブルを起こすのだからそんな頻繁に起こることを家を巻き込むほどの大きな問題にしたくないという二つの考えのもとにある。


ようは大人は子供を助けてはいけないし子供は大人に助けを求めてはならないのだ。


しかし王子は真っ向からこのルールを破った。雇い主である王家の子息という立場を利用して一貴族の子供に王国屈指の猛者である近衛をぶつけようとするなど。


とんでもない醜聞だぞ。それも俺のとは比にならないレベルのだ。間違いなくこの瞬間第三王子の評価は地に落ちたし、このような教育を施した王家への心象も悪化する。


それを分かって言っているのか?今ならまだ取り消せるぞ、という意味での”本気で言っているのですか”だったのだがどうやらこいつはそんなことよりも自分の気持ちの方が優先らしい。


いや、もしかしてあの言葉の意味を理解していなかったのか?だとしたらあまりに残念すぎて逆にこっちが加害者になったかのような気分になってくる。


「・・・ならばもう何も言いません。私は構いませんよ。早く始めましょう」


それを言うと王子は満足そうにうなずいて観戦席に戻った。


「申し訳ない・・・!本当に申し訳ない・・・!」


開始位置に着く前に騎士の人が王子にバレないよう小声でこちらに謝ってくる。その声は悔しさと悲痛にまみれていて彼の心境が伺われる。


「別に気にしなくていいですよ。それよりも始めちゃいましょう?」


だからあえて声を震わせて怯えながらも無理して相手を気遣う心優しい子供を演じる。


「・・・気遣わせてしまうとは、なんて情けないんだろうな私は・・・」


案の定ただでさえ最低な相手のモチベーションが更に低下したぞ。やったね。


悪いな、でもこれ戦いだから負けるわけにはいかないんだよね! 汚いとは思うが油断していても確実に勝てるとは言い難いほど強いのだ。少しでも勝率を上げるためなら演技ぐらいするさ。


さて、そういえば審判はどうするのだろうと思って観客席の方を見てみるといつの間にかうちの両親と王妃様がこちらに来ていた。


王妃様は青ざめた顔をして両親に謝罪をしているようだが彼らは気にすんなとでも言いたげに微笑していた。


いや気にして!?もっと普通心配とかさあ・・・あるじゃん!それがなんで笑ってられるの!?


もうここで彼らが来てよかったことなんて王妃様は常識があるって分かったことと彼女の護衛が審判を務めてくれることだけだよ。・・・これ両親じゃなくて全部王妃様だな。




・・・さて、開始位置についたわけだが一つ言いたいことがある。さっきと違ってめっちゃ近い!間隔が10mぐらいしかない。もちろん王子のせいである。まじふざけんなよ。仮に相手が最初から本気で来るとしたら今の俺だとまず勝てない距離だ。


まあこういうときの為の対応策として油断させてやる気も削いだのだが・・・だからといって対策が有効になるような場面は全く喜べない。


どうやって戦うかだが速攻一択だな。ちんたらしてたら負ける。まだ相手がこちらの実力を把握していないうちに一気に行く。


『それでは今から決闘を開始する!・・・始め!』


「クラウド!」


あえて詠唱しながら魔法を発動する。もちろん隠蔽も一切していない。


相手は突然俺が魔法を使ったことに困惑しているようでまだ目くらましの雲の中に立ちすくしている。


よし、これならいける!


「ファイア!」


これまた一切隠すことをせずに火球を放つ。もちろん普段より大分加減している。それでも先ほどのザイードのものとは構築速度、威力ともに比べ物にならないほどだが。


「・・・ふん!」


恐らくハンデのつもりなのだろう。あえて雲の中に立ったまま飛んできた火球を斬る騎士。本気でやればあんな粗雑なつくりの雲なんてすぐに振り切れるしなんなら剣の一振りでかき消せるだろうにお優しいことだ。だがこちらはその優しさにありがたく付け込ませていただこう。


火球を斬って少しだけ気が抜けたところを闇の茨が彼を締め付け、装備していた剣を絡めとる。


この段階で彼を囲うように発動していた魔法の隠蔽を解く。はー、中身は初級のダークボールだけど数が数だから結構神経使ったな。本当に手加減と油断があってよかった。そうでもなきゃこんな場所で使ったら問題になるような魔法を使わざるを得なかった。


というか殺さずにいい塩梅に傷つける加減が難しい。なにせここ半年重点的に磨いたのは安全に素早く相手を殺めるための魔法だからな。こういう命のやりとりじゃない戦いには向かなさすぎる。


「・・・!?・・・!!」


今は口まで塞がれて喋れないから声聞こえないが驚いているのが気配で分かる。


まあそりゃそうだろう。あくまで年の割には魔法を使える程度と思って油断していたとこに縛られるまで気づけなかった茨といつの間に自分を囲っている50以上のダークボールだ。しかもその出来はさっきの火球とは段違いの。


「ごめんねこんなやり方で」


五歳児に負ける騎士なんて前代未聞だろう。それも自分にとてつもなく有利な条件の上でだ。可哀そうだが相手が子供だから手加減していたという言い訳も効かないはずだ。そんなことは相手の実力を測れなかったと自らの失態を晒すことと同義であるからして。せめて俺にできることはこの後彼の立場が悪くならないように祈ることぐらいだ。




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